Evol.033 俺の幸運はとどまることを知らない
「グッチッ」
ガマグッチはすぐに俺から逃げようと踵を返して飛び跳ねていく。しかし、その動きを俺は見えていた。
「ほっ」
俺はアイアンタートルの甲羅をぶん投げてガマグッチの逃走方向を塞ぐ。
―ズンッ
勢いよく飛んでいった甲羅はガマグッチの目の前に落ちた。
「グッチ!?」
突然目の前に落ちた巨大な甲羅に驚き動きを止める。
「はっ」
「グッチィイイイイイイッ!?」
俺はその隙をついてガマグッチに近づき、爺さんから借りている剣で切り裂いた。
ガマグッチは真っ二つになり、そのまま燐光となって姿を消した。その後で空中の何もないところから地面に降るように金貨が降り注ぐ。
「い、いやいや、出すぎだろ……」
まるでシャワーのようにあふれ出てくる金貨。俺はその様子を呆然と見守っていた。正直数えるのも嫌なくらいの量だったので特に数えることはしていない。
リュックにはある程度は入れることは出来そうだが全部は無理そうだ。
「あっ」
この金貨をどうやって持って帰るかを考えていたらふと思いつく。
「アイアンタートルの甲羅の中に入れていけばいいじゃん」
と。
俺は甲羅を傾けて中に金貨をかき入れた。その後で甲羅を持ち上げてみたが、とりあえず問題なさそうだった。
「よし、帰るか……」
アイアンタートルの甲羅を手に入れ、さらにはガマグッチを倒して枚数を数えるのが面倒なくらいの金貨を得た。成果としては十分すぎる。
だから今日はまだ夕方には早そうだが、一二階に向けて歩き出した。
「グッチグッチッ」
「グッチッチィッ」
「グチグッチィ」
しかし、俺の幸運は留まる事を知らない。再びガマグッチが俺の前に姿を現した。それも複数。
俺は彼らが気づく前にその内の一匹に近づき、無言で刃を振り下ろす。その瞬間そのガマグッチは消え、何も無いところから金貨を吐き出した。
それにより他の二匹が俺に気づき、逃げようとするが、そのスピードは一度見ているため、二匹目にすぐに追いつきその背中を切り捨てる。そして最後の一匹に俺は思いきり剣を投げつけた。
「グッペッ」
その剣は見事にガマグッチに直撃し、また金貨が滝のように溢れ出した。
「ヤバいよなこれ……」
俺は投げた剣の場所まで歩いて地面に突き刺さった剣を引き抜いて鞘に納めると、三カ所で金貨が広がる光景を見て呆然となった。
しかし、そうこうしている間に誰かが来るかもしれないので、俺は急いで一旦背負ってきたリュックに金貨を詰め込み、それを甲羅の中に出すというバケツリレーを繰り返すことで全ての金貨を収めることが出来た。
「今度こそ帰るぞ!!」
やっと金貨を仕舞い終えたので再び甲羅を担いだ。しかし、これで終わる俺の幸運ではなかった。
「グッチグッチッ」
「グッチッチィッ」
「グチグッチィ」
再び複数のガマグッチが現れた。俺はそれも倒して、再び甲羅に金貨を入れる作業を行った。最終的に合計で二〇匹のガマグッチを討伐することに成功したのであった。
「おい、今日もアイアンタートルの甲羅を手に入れてきたみたいだぜ?」
「流石アイアンタートルスレイヤーだな」
「マジそれな」
ようやくギルドに帰り着いて中に入れば、俺の顔をコソコソと窺いながら周りの人間達と話し始める。
しかし、そんな奴らに構っている暇はなく、俺は一刻も早く甲羅の中身をどうにかしたいのでステラさんの所に急いだ。
「こんにちは――」
「ステラさん悪い。ちょっとこのアイアンタートルの甲羅を入れることが出来る個室を借りられないか?」
俺はいつものステラさんの挨拶を遮り、願い出る。
「えっと……何かご事情がありそうですね。少々お待ちください」
「助かる」
すぐに事情を察してくれたステラさんは何やら機械を操作した後、受付からこちら側に出てきて個室に案内してくれた。
―バタンッ
「それで、どうされたんですか?」
個室に入り、きちんと扉が閉まっているのを確認した後、立ったままステラさんが話し始める。
「これを見てくれ……」
「これは!?」
俺はアイアンタートルをそのまま下し、ステラさんの方に傾けて中身を見せた。
「まさかガマグッチですか?」
「ああ。そのまさかだ」
ステラさんは呆然としながら俺の方に首を向けて問いかける。中身を見るなりピーンと来たらしいステラさんに俺は頷いてみせた。
「こんなに金貨が出た報告は聞いたことありませんよ!?」
「ん? ああ、だって一匹分じゃないからなこれ」
ステラさんは困惑した表情になりながら俺を問い詰める。
どうやらステラさんはこれが一匹から出た物だと勘違いしているようなので、俺はその勘違いを正す。
「え? ということは?」
「ああ。俺はガマグッチを二〇匹狩ってきたんだ」
「えぇええええええええ!?」
何匹倒したのか、という言葉にならない質問に対する答えを聞いたステラさんは、余りの驚愕で天まで轟くような大声を上げた。
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