Evol.034 大金持ち

「二、二〇匹ですか!?」


 その数に困惑するステラさん。


 ガマグッチは一匹だって中々遭遇できないモンスター。それが二〇匹ともなれば、どれだけ天文学的な数字になるか分かったものではない。


 にも関わらず遭遇したとなれば、彼女のような反応になるのは仕方がない。俺でもステラさんの立場だったらそう思うのは間違いないだろう。


「ああ。たまたま遭遇することになってな」

「どうやったらそんなに遭遇するんですか!?」


 俺が苦笑しながら返事をしたら、まるで責めるように俺を問い詰めた。


「そこは俺の役割ロールの運が良かったとしか言いようがないな」

「そんなことがありえるんですか?」


 少し呆れている俺の回答を聞いた彼女は不思議そうに首を傾ける。彼女も能力値の運に関する内容は知っているはずから当然の疑問だ。


「恐らく他の人間達よりもかなり高いからな。その可能性が高い」

「なるほど。ステータスを見た時から凄いとは思っていましたが、本当に規格外の役割みたいですね」

「それは俺も同感だ」


 簡単な説明で俺のステータスをざっくりではあるけど知っているステラさんは、ある程度理解したらしい。


 俺は彼女の反応に肩を竦めて返した。


「それでは用件というのはこの金貨を口座に入れて欲しいということですか?」

「そういうことになるな」

「分かりました。ギルド所有のアイテムバッグがあるのでそれを持ってくるので少々お待ちいただけますか?」

「頼む」


 俺の事情を理解したステラさんは、一度退室してアイテムバッグを持ってきた後、甲羅の中に入った金貨をその中に収納してくれた。


「それじゃあ、甲羅はいつものように納品場所に置いてきてください。それまでにこちらの金貨の入金処理をしておきますので」

「了解」


 俺は納品場所に甲羅を持っていき、納品完了書を受け取って受付に戻ってきた。そこは受付中の札が立っており、誰も並んでいない。


「あ、おかえりなさい。処理は終わりましたよ」

「あれだけあったのに早いな」


 硬貨のお風呂にしても尚まだ余裕があるくらいの金貨があったにもかかわらず、既に入金されていると聞いて俺は軽く驚いた。


 あれだけあったら数えるのも大変そうなのに。


「魔道具があれば凄い数の金貨があっても計算がすぐ終わりますからね」

「そりゃ凄い」


 どうやら特別な道具があってそれを使用するとすぐに終わらせることが出来るようだ。凄く便利な機械もあるものだ。


「それでは、今回の依頼の完了手続きと、先程の金貨の口座への預け入れが終わりましたのでその報告をしますね」

「分かった。これが納品完了書だ」

「お預かりします」


 俺は受け取ってきた書類を渡してステラさんが作業を終えるのを待つ。


「今回の報酬も口座に入れますか?」

「そうだな。それで頼む」

「分かりました。それでは今回の報酬も含めた預入額ですが、金貨一二四三六枚と銀貨三枚なります」

「……」


 俺はあまりの金額の多さに呆然となった。


 俺が雑魚だった時に稼いでいた金額が銀貨一枚。金貨一枚は銀貨一〇〇枚だ。つまり、俺は約一二四万倍の報酬を得たことになる。


 そりゃ放心もするわ。


「だ、大丈夫ですか?」


 俺が固まったのを見て心配そうに問いかけてくるステラさん。


「大丈夫に見えるか?」

「いえ、私も機械に通してみてその金額の大きさに驚いたので気持ちが分かります」


 声を震わせて聞き返せば、彼女は俺の気持ちに賛同しつつフルフルと首を振る。


「だよな」

「はい。たった一日で大金持ちですよ? これほどの大金、高ランクの探索者だってそんなに稼げません」

「本当に運が良かったな」

「ですね。ただ、これが普通だとは思わないように気を付けてくださいね」


 苦笑いする俺に彼女は真剣な表情で忠告してくれた。


 そうだな。こんなのが普通だと思ったら今後物凄く辛くなる。


「ああ。肝に銘じておくよ」


 ステラさんの気持ちを受け取って俺はしっかりと頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る