Evol.032 1040倍の力
依頼を達成するためにダンジョンを駆け抜けて一三階層までやってきた。
「大分今の体にも慣れてきたな」
初日は往復で八時間程掛かっていた俺も今では六時間ぐらいまで短縮できている。少しずつ高い能力値の体にも慣れてきていた。それでも今は一〇四〇倍の能力値を完全に持て余し気味だが。
金がなかったのでずっと我流でやってきたから、体の使い方も滅茶苦茶だろうし、どこかの剣術道場にでも入門した方がいいかもしれない。
「おっ。今日も簡単に見つかったな」
巨体ゆえに見つけやすいはずのアイアンタートルだが、風景に擬態していることもあるので案外見つけにくいらしい。俺はそんなこと一度も思ったことがないけどな。
見つけた個体はゆっくりと何処かに移動していた。
「そんじゃあ、今日も俺の報酬になってもらうぞ。ウィンドカッター」
俺に気付いていないアイアンタートルに対して魔法を放ち、あっさりと倒してしまった。そして一匹目で簡単にアイアンタートルの甲羅がドロップする。
「絶対アイテムドロップ率上がってるよな。最初の頃はこんなに簡単に落とさなかったし」
俺が初めてアイアンタートルの甲羅を手に入れた日は、もっと何十匹も倒していたはずだ。それが最近になったら一匹から五匹の間にはほとんどドロップしている。
そのせいでレベルアップが鈍化しているのも次に進みたい理由の一つではある。
「やっぱり運かなぁ~」
俺は腕を組んで体を傾ける。
俺が思い当たるのは運の値。
最初のアイアンタートルを倒してから二〇〇も上がっている。
運の値っていうのは本来他の能力に比べてあまり上がる事のない数値だ。レベルアップ数回に対して一上がるとかが普通のはずだ。
しかし、俺はレベルアップ時のステータス成長値が上がりうる数値の最大値に固定されているので、毎回他の能力値と同じ分だけ上昇している。
「運の能力値なんて眉唾、みたいに言われてるけど、今の結果を見るとバカに出来ないよな……」
運の能力値については、効果がハッキリと分からないのでそれほど影響はないと言われてきた。
運の数値は殆どの人が似たり寄ったり。たまに少し高い人が居てもせいぜい他の人よりも一〇~二〇ほど高い程度。
そのくらいだと、もしかしたらドロップ率が他の人よりもいいかもしれない、程度の差しか生まれなかった。
しかし、それは数値が低く、誤差程度の差しかないせいだということが分かる。他の能力値と同じくらい数値が上昇すれば、自覚できる程に運がいいことが起こることがここ数日で良く分かった。
これは新しい発見だった。
「依頼も完遂したし、今日もサワークラブでも狩って帰るか」
以前背嚢に入れて持って帰り、厨房を取り仕切る宿の旦那さんに調理してもらった所、なかなか美味かった。
毎日は流石に飽きてしまうが、七日に一回くらいは食べてもいいくらいだ。
『もっと持って帰ってきておくれよ』
女将さんもそんな風に言うくらいだしな。
「じゅる……よし、行こう」
俺はアイアンタートルの甲羅を軽く放り投げて下で支え、片手の上に乗せて帰路に着こうとした。
「グッチチチチチッ」
しかしその時、カエルなのか、バッグなのか判断が難しいモンスターが姿を現す。
「ガマグッチ……」
それはどう見ても今日話題になっていたレアモンスター、ガマグッチであった。
それだけで運の能力値は確実に影響があると断言できた。
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