Evol.027 胸糞悪い光景

 俺はそろそろ武器防具を新調した方が良いと思い、馴染みの武器屋を目指して歩いていた。


 その道中で見知った服装の少女に出会う。それは恐らくスフォルだ。しかし、なぜか彼女は道に蹲っていて、体中に痣を作り、汚れにまみれていた。


 彼女の周りにはスフォルと同い年くらいの戦士装備を身に着けた少年一人と、魔法使い風の少女が一人、そして斥候らしき少女が周りを囲んでいた。


「おい、この疫病神。今回の探索がお前のせいで台なしになったじゃねぇか、どうしてくれるんだ?」

「ホントよね。あんたが罠を踏んだせいで折角手に入れたお宝はパー。大赤字よ」

「全く唯の役立たずならまだしも私達にまで不幸をまき散らすなんて、あんたなんかをパーティに誘ったのは間違いだったわ」


 彼らからから聞こえてきたのはスフォルに向けた罵倒。どうやらスフォルは属しているパーティメンバーに詰られているらしい。


 通行人の誰もが彼らを止めようとしない。


「おい、お前ら何してるんだ!!」


 しかし、俺は彼女を放っておくことが出来ずに思わず声を掛けた。


「なんだよあんた。邪魔すんなよ」

「そうよ、今役立たずに自分の立場を分からせてるんだから」


 戦士風の少年と斥候風の少女が俺の前に立って睨んでくる。


 しかし、その程度今の俺にとってはなんの威嚇にもならない。


「いくらなんでもその仕打ちはあんまりだろう」

「はぁ!? うるせぇんだよ、おっさん。これは俺達パーティの問題だ。部外者のあんたに何かを言われる筋合いはねぇ。すっこんでろよ!!」


 俺の非難に対して少年は聞く耳を持とうとしない。


「筋合いならある。俺は彼女を二度ダンジョンで助けている。自分が助けた相手がこんな仕打ちを受けていたら、黙っていられるわけないだろう」


 しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。だから俺は彼女の事に口を出す理由を述べる。


「はーん、そうかあんたが……よくもこんな女助けてくれたな!!」

「きゃあああああっ!?」


 俺が忌々し気に見た後で急にスフォルの方を向き直り、蹲っているスフォルを蹴った。


「うぅ……」


 スフォルは地面に倒れ、蹴られた場所を痛そうに押さえながらうめき声を上げる。


「おいやめろ!!」

「うるせぇって言ってんだろ? 俺達はこいつのせいで被害を被ってんだよ!! それは償ってもらわないといけねぇ。それを止める権利はあんたにはねぇんだよ!!」


 俺が彼を止めようとするが、彼に反論されてしまった。


 スフォルがパーティメンバーに被害をもたらしているのは間違いないのだろう。


 半月で二回も助けているんだ。いつからパーティを組んでいるか分からないが、月に四、五回は彼女によるトラブルに巻き込まれているのかもしれない。


 それが続けば彼女の事が疎ましくなるかもしれない。でも……それにしたってあんまりじゃないか。


「それなら俺が――」

「や、止めてください、ラストさん……私は大丈夫ですから……」


 彼女を引き取る、そう言おうと思ったところで蹲っていたスフォルが体を起こし、俺の言葉を遮った。


 どうして……。


 俺の心にそんな疑問が沸き上がる。


「ほら、こいつもそういっているじゃねぇか。お呼びじゃねぇんだよ」

「ご、ごめんね、みんな……」


 彼女の言葉に乗じて戦士の少年が俺を追い払うような仕草をし、スフォルはふらふらになりながらも申し訳なさげに彼らに謝る。


「本当だよ。全くあんたには迷惑かけられてばっかり」

「あんたに生きる価値なんてないのに私達が生かしてあげてるんだから感謝しなさいよね」

「ごめん……」


 他の女性メンバーに責められるが、彼女はただ頭を下げて謝るだけだ。


 こんなのがパーティだって言うのか?


 俺はそう思わざるを得なかった。


「ラストさん……もう私に関わらないでください……」


 スフォルは震えながら俺から視線を逸らして拒絶する。


 俺には彼女がそうまでしてこのパーティにこだわる理由が分からなかった。


「おっさん振られたな!! じゃあな!! おい、さっさとこいよ!!」

「うっ……ごめん……すぐ行くね……」


 少年はニヤリと笑って俺を小ばかにした後、スフォルを軽く殴り、何処かに歩きあ始めた。少女たちがその後を追う。スフォルは殴られた痛みに顔を歪ませるが、すぐに彼らの背中を小走りで追いかけた。


 拒絶された俺はその背中をただ茫然と見つめる事しか出来なかった。

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