Evol.025 元雑魚、目立つ

 俺は片手を上げその上にアイアンタートルの甲羅を載せてダンジョンの帰り道を走っている。


 何があってもアイアンタートルは落とさないと自分ルールを設けて、点在する岩の上をぴょんぴょんと跳ねて沢エリアを疾走していく。


「うぉおおおおおおっ!?ア、アイアンタートル!?」

「アイアンタートルの甲羅が走ってくる!?」

「いや、誰かがアイアンタートルを持ってるぞ!?」

「なんだと!? あれはこの階層を狩場にしている探索者じゃ、数人がかりでようやく運べる重さなんだぞ!? 一体どこの高ランクがそんなもの持ってきてやがる!!」


 一二階層を走っていたら他の探索者達が何やら驚いているが、一瞬で通り過ぎたため、彼らの言葉俺に届くことはなかった。


 どうしたんだろうな?


 まぁ気にすることないか。


「よっ。ほっ。はっ。」


 途中から唯走るのも飽きてきたので、バク転やバク宙をしたり、頭の上に甲羅を載せてバランスを取りながら走ったりと、曲芸じみた遊びしながら走り始める。


 目まぐるしく動いているが、気持ち悪くなったり、バランスを崩してしまったりすることもなく、簡単に実現できてしまう。


 進化クラスチェンジした体は以前と比べ物にならないほどにイメージ通りに動かすことができ、頭からつま先まで神経が行き渡っているような感覚がある。


「な、なんだあれは!? 甲羅が飛び跳ねてる!?」

「甲羅に上に誰か乗っているわ!!」

「甲羅が浮かんでいるぞ!!」

「甲羅が躍っている……だと!?」


 そんなことをしていたら、すれ違う人たちからさらに注目を浴びてしまった。


 ちょっと恥ずかしいな……。


 遊んでいる所を見られて恥ずかしい思いをしながら四時間ほど走り続け、ダンジョンの入り口付近に辿り着く。


 前の体だったら絶対持って帰って来れなかったし、こんな時間で十三階層から帰って来れなかったな。


 しかもそれなりのスピードで走ったのに全く息が上がっていない。まだまだ俺は自分の体の力を引き出しきれていなかった。


「おい、あいつアイアンタートルの甲羅片手で持ってるぞ?」

「あんな高ランク探索者知ってるか?」

「なんかどこかで見た覚えがあるような気がするんだけど、どこだったか……」


 ここでは普通にアイアンタートルを持って移動しているだけなのに何故かジロジロと俺を見つめてくる。


 俺じゃない誰かを見ているのかと思って少し辺りを見回してみたが、全員の視線が交わる場所は俺自身が立っている場所だった。


「俺、なんかしちゃったのか? 兎に角ギルドに行ってさっさと納品を済ませよう」


 大道芸のようなことをしていたのなら分かるが、ただ持って移動しているだけなのに人目を集めてしまい、なんだか居心地が悪いのですぐにダンジョンから出てギルドを目指して走った。


 しかし、街中に姿を現した後の方がダンジョン内よりも視線が集まってきてしまい、できるだけギルドまで無心で急いだ。


「やっとついた……」


 ずっと注目を浴びていたのギルド前に辿り着いた途端、疲労が襲い掛かってくる。


「おいおい、これってアイアンタートルだよな? どうしたんだ?」


 丁度その時、職員の制服を着た男がギルド内から出てきて俺を見るなり、話しかけてきた。


「いや、依頼を受けて獲ってきたんだけど、これってどこに納品すればいいんだ?」


 俺はこれ幸いとばかりに職員の男に事情を説明しつつ、アイアンタートルをどこに持っていけばいいか尋ね返した。


「ああ、普通に入って受付に行けば指示を出してくれるぞ」

「おおそうか。分かった。ありがとう」

「いいってことよ」


 初めての事だったため確認したが、いつもと変わらないようだ。


 ――キーッ


 俺は男に礼を言った後で普段通りスイングドアからギルド内に足を踏み入れた。


「お、おい、あいつ、アイアンタートルの依頼を受けたみたいだぞ……」

「マジだ……可哀そうに赤字じゃねぇか……」

「いや、アイツの武器を見て見ろよ」

「折れてねぇ……」

「ああ、それにアイツは一人……言ってる意味が分かるな?」

「それって……」

「そうだ。あいつはソロでアイアンタートルを狩って、一人で運んでくる力があるってことだ」


 何故かここでも滅茶苦茶ヒソヒソ話をされる。


 前とは別の意味で居心地が悪い。


「こんにちは。ステラさん」

「こんにちは……って!? ラストさん!? もうアイアンタートルの甲羅を手に入れてきたんですか!? まだ一日ですよ!?」


 俺はそそくさと受付に近づき、作業をしていて俯いていたステラさんに声を掛けたら、普通に挨拶した後で二度見され、捲し立てるように返事を返してきた。


「あ、ああ。まぁな」


 ステラさんの勢いに俺は少しタジタジになりながら相槌を打つ。


「いや、進化したのは知ってますけど、まさかここまでとは……」


 ステラさんは俺が持っている甲羅から俺のつま先までまじまじと観察しながら感心していた。


「そんな凄い事なのか?」


 俺としてはステラさんが問題ないと言っていたから改めて感心されるとは思わなかったので首を傾げる。


「ええ。アイアンタートルは適性ランクの探索者が一人で倒すモンスターじゃありませんし、ドロップアイテムの大きさと重さから一人で持って帰ってくる人もまずいませんからね。ラストさんが達成できると言ったのも倒すのに時間をかけた上で、何日もかけて引き摺ってくると思っていたので……。まさかその日のうちに片手で持ち上げて余裕で持ってくるとは思いませんでした」

「そうだったのか……」


 俺はどうやら思っていた以上に凄い事を成し遂げてしまったらしい。


「まぁ私としては予想以上に進化後のラストさんが強いと言うことがわかったので良かったです」


 俺が自分がやったことに呆然となっていると、彼女は茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべた。

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