Evol.022 報酬と11階層

「ゴブゥウウウウウウウウッ……」


 目の前のホブゴブリンを一回り大きくして鎧で武装したようなモンスターはひどくあっさりと粒子になって消えていった。


 こいつの名はゴブリンジェネラル。一〇階層の一番奥の扉の中にある部屋で待ち構えていた階層ボスだ。


 しかし、俺の能力値はすでにCランク探索者を超えているのは経験済みだ。Cランク探索者ともなれば三〇階層くらいまで潜っている人間が多い。


 ゴブリンと戦いながら必死になって身に着けた技術と今の能力値があれば、初めての一〇階の階層ボス程度に後れをとるような俺ではなかった。


 中ボス 対 階層ボスの戦いはあっけなく幕を閉じた。


「魔石と……ドロップアイテム、それとボスの討伐報酬の宝箱か」


 モンスターは魔石の他にアイテムを落とすことがある。


 そのアイテムをドロップアイテムと呼ぶ。ドロップ率はアイテムによるが、最高でも確率五%なので中々落とさない。しかもボスともなれば尚更だ。


「これは盾か……確かそういう情報は聞いたことがあったな」


 ゴブリンジェネラルからのドロップアイテムは盾だった。いわゆる円形の盾でラウンドシールドと呼ばれるものだ。


 装備を揃える金もなかった以前の俺なら滅茶苦茶喜んでいただろうけど、今となっては普通に稼げてしまうのでそれほどの嬉しさはない。


 ただ、俺の装備は片手剣だし、使えないことはないので左手に装備する。


 それから、宝箱に入っていたのは小さな指輪だった。


「確かここで手に入るのは能力値のいずれかが一〇上昇するものだったはず。これも使って損はないから付けておこう」


―――――――――

能力値

力  :840

体力 :840

魔力 :850(+10)

敏捷 :840

器用 :840

運  :840

―――――――――


 指輪を装備してステータスを確認すると、今回手に入れた指輪は魔力を高める装備だったようだ。


―ゴゴゴゴゴゴゴッ


 全ての戦利品を検め終わったところで、階段を塞いでいた壁がせり下がる。


 ボス部屋は入った後で扉が閉まると、ボスを倒すまで外に出ることはできないし、中に居る人間が負けるまで他の人間が入ることは出来ない。そして勝利した場合は奥への道と入り口の扉が開く仕様になっている。


「さて、一一階層に行ってみるか」


 俺は独り言ちて階段を降りた。


「おお、今度は沢か……」


 ほの暗い階段を抜けた先に広がっていたのは、両脇を滅茶苦茶高い切り立った崖に挟まれた幅百メートル以上ありそうな沢だ。


 その沢ではカニのようなモンスターが徘徊しているのと、若い探索者達がカニたちと戦っている姿が目に入った。


「あれがサワークラブ。確かドロップする足が中々美味いと聞いている。甲羅を手に入れたらあのカニを沢山狩るのも悪くないな」


 俺はサワークラブを見つめ、帰った後であのカニを宿の主人に調理してもらって出てくるであろう料理を想像して思わずよだれが出てしまう。


「いや、今は依頼に集中だ。勿論戦闘力の確認に一度は戦ってみるけどな」


 頬を両手でパンッと張って気持ちを入れ替えて誰も相手をしていないサワークラブへと近寄った。


―スパンッ


「ブクブクブクブクゥ……」


 改めて見るとサワークラブはかなり大きく、海に居る普通のカニの数倍のデカさがある。甲羅も頑丈で重そうにもかかわらず、カシャカシャと素早い動きを見せる。


 しかし、その程度のスピードも防御力も俺の前には意味をなさず、一撃で昇天した。


「おっ。足を落とした。幸先いいな」


 サワークラブもなんなく倒し、自分の能力値が通用することを確認した俺は、ドロップした脚と魔石を拾い、いい気分のままお目当てのアイアンタートルを探し始めた。

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