Evol.020 再び交わす約束
「何か食べたいものはあるか?」
「いやないよ。しいて言えば肉?」
「ははははっ。男の子だな。いいだろう。肉が美味い店に連れてってやろう」
俺とリフィルは並んで街を歩く。
こんな夢みたいなことがあっていいのだろうか。
行く人来る人が全員リフィルに視線を奪われる。その隣に俺がいると、睨らまれたり、信じれないと呆けたりする人間が多い。
少しだけ優越感に浸る。
「どうしたんだ、そんなきょろきょろして……」
そのせいで動きが挙動不審になり、リフィルに困惑気味に尋ねられる。
「そりゃあ、挙動不審にもなるよ。なにせあのリフィル・ヴァーミリオンと一緒に歩いてるんだから」
「なんだそのあのってのは。私はただの探索者なんだがな……」
俺が理由を述べたら、自嘲気味な笑みを浮かべるリフィル。
「ソロでしかもSSSランクは"唯の"とは言えないよ。この街に三人しかいないんだから」
彼女は今代最強の探索者の一人だ。そんな人と一緒にいて緊張するなって方が無理があるし、周りの視線も気になる。
「はぁ……肩書というのは面倒なものだな。私は最奥を目指しているだけだというのに」
「それは有名税だと思ってあきらめる他ないよね」
「それは分かるが、いつもこうではなぁ……」
長い間たまりにたまったものが俺という顔なじみがいることで溢れ出す。
「ははははっ。でも俺は嬉しいけどな。そんなリフィルに助けられたことは俺の一生の自慢だ」
「ラストにそう言われると悪くないな」
俺がテンション高めに言えば、彼女も少し機嫌を直して笑った。数分程たわいのない話を続けていると、リフィルの行きつけのお店にたどり着く。
「さて、今日は私が出すから好きなものを食べていいぞ」
「わ、分かった」
そこは個室のあるお店だが、そこまで格式高いというわけでなく、俺でも入ろうと思えば入れそうな雰囲気だった。
奥の個室に案内された俺達。店員を呼んだ俺は料理の説明を聞きつつ、美味そうな料理を頼んだ。
「さて、久しぶりの再会を祝して乾杯」
「乾杯」
―チンッ
料理の前に酒を頼み、コップを軽くぶつけ合う。
「それじゃあ、あれからどうしてたのかを教えてくれ」
「あ、ああ。分かった」
俺に話をせがむリフィルに応じて俺が三〇年間何をしていたのかを掻い摘んで話した、後ろ暗い部分は適当にぼかしながら。
その途中で料理が運ばれ、その肉料理に舌鼓を打ちながら語り続けた。
「ほう。それじゃあ、成人してからずっと探索者をしていたのか」
「まぁね」
「それでランクはいくつになった?」
「……」
しかし、触れられたくない話題を避けることは叶わなかった。俺は何も言えずに思わず黙ってしまう。
「あっ。ギルドカードを合わせた時に見たな。あれはFだったか……」
「あ、ああ。ごめん言い出せなくて……」
「あ、いや、私も少し突っ込みすぎたな、許せ」
ギルドでのやり取りを思い出したリフィル。隠していたのがバレてバツが悪くなって俯く俺に、リフィルは申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いや、リフィルは何も悪くないから。むしろ俺の方がごめん。三〇年かかっても未だにリフィルとした約束を守れていない」
俺は慌てて謝罪するリフィルの頭を上げさせ、むしろ自分の落ち度を謝り、俺は彼女と別れる際にした約束のこと話す。
俺自身のことは覚えては居ても、三十年も前に子供と交わした約束だ。忘れている可能性が高い。でも、忘れられていたらそれはそれで構わない。
必ず果たしてみせる。
「約束…………ああ!! 私とダンジョンの最奥を目指すという話だな?」
うーんと首を傾げて何かを思い出すような仕草をした後で、自分とした約束を語る。
約束を覚えていてくれた。それだけで本当に嬉しい。
「うん。俺今はランクアップしてEランクなったばかりだけど、それは一昨日
「ほう。それはめでたいな」
俺の言葉に目を丸くするリフィル。
「数日前までの俺は何をしてもダメだったかもしれないけど、今なら絶対にリフィルに追いついてみせるよ」
俺はまっすぐにリフィルを見た上で力強く宣言した。
「ふっ。いつの間にか男の顔をするようになったな。それなら私も楽しみ待っていよう。未だかつて私についてこられた男はいない。もしラストが私の横に並んだ暁には私の男にしてやるぞ?」
「~~!?」
俺のただならぬ雰囲気を感じ取ったリフィルはとんでもないことを言いだす。俺は顔が熱くなり、驚愕で言葉を失った。
「はっはっはっ。冗談だ」
俺の様子を見て笑うリフィル。どうやら昔と同じように揶揄われてしまったらしい。
「分かったよ。必ず追いついてリフィルの男にしてもらうからな」
「~~!?」
ニヤリと笑って仕返ししてやったら、今度はリフィルが黙って顔を赤らめることになった。
はははっ。してやったり。
リフィルが狼狽えた顔は普段の凛とした表情とのギャップで信じられない程に可愛らしかった。
そんな彼女の顔を見られて満足だ。
そして、その顔と共に俺は必ず約束を守ってみせると改めて自分に誓った。
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