Evol.018 25年越しのテンプレ

「それじゃあ、早速依頼を見てくるよ」

「はい、頑張ってください」


 俺はステラさんに別れを告げ、クエストボードの前まで歩いた。クエストボードにはいくつかの依頼書が貼り出されている。


「うーん、どういうのがいいか全然分からん……」


 この二五年間依頼を受けるということをしたことがないので、依頼の良しあしが分からなくて困惑する。


 ただ、依頼書はあまり残っていない。依頼書は朝に更新されるため、すでに引きはがされて受注されているものばかりなのだ。


 夕方の現在に残っている依頼はあまり良いものとは言えないだろうな。


「おい」


 それにしても色んな依頼がある。


 ドロップアイテムを求めるもの。モンスターの討伐を求めるもの。ダンジョン内に自生する植物を求めるもの。ダンジョン内の坑道エリアの鉱石を求めるもの。ダンジョン内の宝箱から入手できる特定のアイテムを求めるもの。子守り。街の清掃。様々だ。


 後半はダンジョンと関係がないものもあるが、こういう町の依頼もここに集まってくるみたいだ。人々の要望と稼げない探索者の救済措置なのかもしれない。


 俺としてはまずは無難な依頼からこなしていきたいと思う。無理して稼ぐ必要もないし、常設依頼といういつも張り出されている依頼からこなしていくのがいいのではないだろうか。


「おいって言ってんだろ?」


 突然後ろから俺に仕掛けようする気配が感じられたので身を躱す。


「うぉっ」


 俺がいた場所を見れば、そこには悪人面の筋骨隆々の男が、誰もいなくなったことで支えを失って倒れていた。


「兄貴!! てめぇ、よくも!!」

「許さねぇぞ!!」


 その男の他に二人の取り巻きみたいな人間が吠える。


 "雑魚"だった時の俺なら完全に委縮してしまっていただろうけど、今の俺にはそよ風みたいなものだった。


「いや、そっちが勝手にこけただけだろ? 俺に何の用だ?」

「てめぇ。俺を無視した挙句、恥をかかせやがって……」


 その場に倒れた男はわなわなと肩を震わせながら立ち上がり、俺を睨みつけてくる。


 こういう相手は珍しい。


「おいあれって……」

「ああ。Cランクパーティ、オークの鉄拳だ……」

「あいつEランクにあがったばかりなんだろ? 可哀想に……」


 俺たちのやり取りを見ていた周囲の人間たちがざわつき始める。


「ん? 俺に話しかけていたのか? すまんな、俺は二五年ほとんど話しかけられることがなかったからまさか話しかけているとは思わなかったんだよ」


 声は聞こえていたけど、まさか自分に対してだと思わずに返事をしなかったのだが、どうやら相手は俺だったらしい。


 それは悪いことをしたので頭を下げておく。


「お、おう。ってそうじゃねぇ!! お前最近進化クラスチェンジしたからって調子に乗ってるみたいじゃねぇか」

「いや、そんなつもりは全く……ないこともなかったな」


 男は俺の謝罪で怒りをひっこめたと思ったら、一瞬ハッとした後で、不機嫌そうに俺を見下ろす。


 俺はこいつの言葉を否定しようとするも、ここ数日の自分の行動を思い返してみると、確かに調子に乗っていると思われても仕方がない行動をしていた。


 防具なしでダンジョンに潜ったり、魔法を覚えてすぐダンジョンに潜ったり、それは確かに注意されてもおかしくはない


「今日もステラちゃんだけに飽き足らず、"流星"にまでちょっかい出しやがって。俺がその性根を叩き潰してやる」


 と思えば、俺が全く考えもしなかった方向の指摘が飛んできた。


 要はただの嫉妬か。その気持ちは分からなくもないが、それを言い訳にして他人を傷つけるのは違うだろう。


「へぇ~、やって見せてくれよ」


 ただ、思うところがあって俺は男を煽ってみる。


「どうやらボコボコにされないと分からないらしいな」

「御託はいいからさっさと掛かって来い」

「てめぇ!!」


 感嘆に俺の挑発に乗った悪人面が俺に躍りかかかってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る