Evol.016 憧れとの再会
尖った耳と褐色の肌、そして白銀に輝く長い髪、そして人間を超越した容姿を持つ種族、その名はダークエルフ。
彼女は数人しかいないSSSランク探索者の一人で、月の光を思わせる輝きを放つサイドテールを揺らし、颯爽と歩いてくるその姿は、かつて憧れた彼女そのままだった。
ただ、俺が大きくなったせいか、彼女が思ったよりも小さい事をこの時初めて知った。なにせこの三十年くらいなんのかんの会う機会がなかったから気付かなくても仕方がない。
「報告を」
「は、はい!! 少々お待ちください」
彼女はそのまま俺の隣の受付の前まで歩いてきて受付嬢に声を掛けた。
俺は彼女がこのギルドに入ってきてからずっと目が離せなくて、ステラさんとの話の途中だったにも関わらず呆然と目で追ってしまっていた。
「ん? 何か用か?」
見られているのが分かった彼女は俺の方を向いて話しかけてくる。
見た目はどう見ても十代の可憐な少女にしか見えないのに、その言葉遣いはまるで男を思わせる喋り方だ。
こういう話し方をする女性は中々いない。さらにダークエルフともなればこの人以外には見たことがない。
「ん~、どこかで見たことがある魔力の質のような……」
返事をできないでいたら、眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて俺に顔をグイっと近づけてしげしげと俺の顔を観察する彼女。
俺はその端正な顔が目の前に近づいてきたため、思わず顔を背けてしまった。
いやいや、そんなに詰め寄られたら直視なんてできないから!!
俺は内心で大声で叫ぶ。
「確かに会った気がするんだがなぁ……」
喉まで出かかってるのに、あと一歩何かが足りないようでその先が出てこない、彼女はそんな何とも言えない顔をしながら俺の顔をまだ見つめている。
「お、お久しぶりです。以前私の村が盗賊に襲われた際に助けていただきました。とはいえもうかれこれ三十年近く前になりますが……」
そこで俺は意を決して彼女に話しかけた。
もしかしたら思い出してくれるのではないという期待を込めて。
「あぁ~、思い出したぞ!!あの時の子供か……確かラストと言ったか。大きくなったな。村に暫く滞在した時は私に懐いていたのを覚えている。私があの村を出発する時には大泣きしていたな」
「まさか覚えていらっしゃるとは……。お恥ずかしい限りです。忘れてください……」
あの時の俺は若かった……。
彼女に完全に忘れられていなかったことに安堵と嬉しさを感じるとともに、俺は今よりもとんでもなく小さかったので、当時彼女にかなり迷惑をかけたことを思い出し、心の中で悶絶する。
「子供に懐かれたのはあの時くらいだからな。当然覚えているさ。元気にしていたか?」
「えぇまぁ……」
「そうか。懐かしい顔に会えたし、積もる話も聞きたい。後で一緒に食事でもどうだ?」
懐かしそうに語るリフィルさんの質問に、俺は視線を泳がせて曖昧に答える。彼女は何かを察したのか俺を誘ってくれた。
「えぇ!? それは恐れ多いと言うかなんと言いますか……」
「何を言っているんだ。私と君の仲だろう? 気にするな。私に今までの話を聞かせてくれ」
「わ、分かりました」
まさかSSSランクの彼女に誘われるとは思っておらず、俺と一緒にご飯など申し訳ないにもほどがあるので断ろうとするが、彼女にそこまで言われては頷くしかなかった。
「一応私も名乗っておこう。リフィル・ヴァーミリオンだ。改めてよろしくな」
「は、はい。よろしくお願いします」
「それじゃあフレンド登録をしてくれ」
挨拶と食事の約束を終えたと思いきや、さらに信じられない要求をしてくるリフィルさん。
「え?」
俺は思わず呆けた返事を返してしまう。
フレンドとは、ギルドカード同士を合せることで二人のカード上に知り合いとして記録される機能の事だ。これをお互いの合意の上で登録することによって、メッセージを送ったり、ギルドカードを通じて直接話をしたりすることが出来るようになる。
ただし、ダンジョンの中と外ではやり取りができないし、階層が別になると、通話は難しく、文字のみのやり取りでしか応答できない。
そして俺が硬直した理由は、フレンドは余程仲良くないと登録しないということと、超有名人であるリフィルさんが誰かとフレンド登録をしたという話を聞いたことがなかったからだ。
「おいおい、連絡が取れないと不便だろう?」
「い、いいんですか?」
呆れるような視線で固まる俺を見上げるリフィルさんに、躊躇しながら問い返す。
「私から言っているのに悪いことなんてあるか。さっさとギルドカードを出せ」
「わ、分かりました、ど、どうぞ」
どうやら本気らしく、彼女は自身のギルドカードを差し出してきた。もうどうしようもないので意を決して自分のカードを出して彼女のカードと合わせる。
仄かに光り輝き、すぐに収束した。
これで登録完了だ。
「Fランクか……まぁいい。これで連絡が取り合えるな。もし私の方が時間が掛かったら連絡を入れるから待っていてくれ」
「了解しました」
「ではまた後でな」
彼女は俺のカードを見て訝しむが、フレンド登録をしてすぐに二階から現れた職員に別室へと連れていかれてしまった。
「……」
「ラストさんってリフィルさんとお知り合いだったですね」
石像となった俺に話しかけてきたステラさん。
「はぁ……村を助けてもらってその時に構ってもらっただけだけどな」
「それでも本当に凄いことですよ。彼女とフレンド登録できる人なんてほんの一握りですから」
「ははははっ。光栄だな」
リフィルさんとのフレンド登録がやはりかなり珍しいことがステラさんによって証明され、俺は思わぬ幸運に苦笑いを浮かべるしかできなかった。
これも
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