Evol.015 改めて実感する成長

「今日も昨日も本当にありがとうございました。今度必ずお礼させてくださいね」

「いいって言ってるのに。まぁどうしてもって言うなら飯でも奢ってくれ」

「は、はい。そんなことでよければ何度でも」

「一回で良いから。それじゃあな」


 ダンジョンを出たところでまだ恩に着ているスフォルと別れ、俺は換金のためにギルドへと向かう。彼女は嬉しそうに俺の許を去っていった。


「あ、おかえりなさいラストさん」

「ああ。ただいま。今日はこれの換金を頼む」


 俺はステラさんの受付に並び、順番が来たら挨拶も早々に背負っていたリュックを受付に差し出す。


 以前と違い、事務的なやり取り中にも彼女の人間味が感じられる。それがなんだか嬉しい。


「……凄いですね。このリュック全部魔石ですか?」


 ステラは目の前に置かれたリュックに数舜のあいだ目を丸くした後で、リュックに手を添えて俺に尋ねる。


「まぁな」

「改めてこれを見るとラストさんは本当に進化クラスチェンジしたんだなと実感します」

「それは俺自身も感じていることだ」

「ふふっ、そうですよね。それじゃあ換金するので少々お待ちください」

「ああ」


 お互いに同じようなことを考えていて顔を見合わせて笑った後、ステラさんは魔石を機械に乗せて操作をして換金額をトレーに乗せて俺の前に置いた。


「今回はEランクモンスターが一一二匹分でしたので、銀貨五六枚になります」

「おお~」


 俺は改めて今日稼いだ報酬を見て感慨に耽る。


「何を驚いているんですか。昨日の方が稼いでいたでしょうに」

「こうやって以前の一日と今の一日で比べて改めて成長を感じてるんだよ。それに昨日の金は使ってしまったし」


 ステラさんは今更驚く俺に少し呆れ気味に指摘するが、昨日はレベリングハイとも言うべき状態になっていたし、いつものように魔石での換金は少なかったからいまいち自分で稼いだって感覚がなかった。


 でも今は確かに今日モンスターを狩って稼いだという確かな手ごたえが残っている。


 だからこそ今と昔の違いを改めて認識したのだった。


「え!? 何に使ったんですか?」

「そりゃあ、探索者のロマンである魔導書だ」


 俺が大金を使ったと聞いて身を乗り出してくるステラさん。そんな彼女に俺はニヤリと悪い笑みを浮かべて答えた。


 これは買っても仕方ないと思ってくれるはずだ。

 誰もが憧れるものだからな。


「呆れました……その前に買う物があるでしょうに」

「いいんだよ、あれは元々予定になかった金だ。パァーッと使ってしまった方が良かったんだ」


 俺が買った物を聞いて「全く仕方がない人ですね」とでも言いたそうな表情をする。


 どうやら彼女にはロマンは分かってもらえなかったようだ。彼女のようなエルフは役割に関係なく、魔法適性と魔法スキルを持っていることが多いからかもしれない。


「まぁどう使おうがラストさんの自由ですけどね。それじゃあこれはどうしますか?カードに入れておきますか?」


 ステラさんは話を切り替えて俺に報酬の扱いを尋ねる。


「ああ。六枚だけ残して後は口座に入れてくれ」

「分かりました。それじゃあ、六枚はお受け取りください」


 彼女は銀貨五〇枚を機械で処理し、残り六枚を再びトレーに載せて俺の前に置いた。


「ありがとう」

「いえいえ。あ、それともう一つ――」


 俺が報酬を受け取り感謝を述べると、彼女は話を続けようとするが、館内が俄かに騒がしくなって会話が中断してしまった。

 

「おい、あれって"流星"じゃないか!?」

「マジだ!! 確かダンジョンの最深層更新の長期遠征に出ていたはずだが、帰ってきたのか!!」


 野次馬が語るその二つ名を聞いた瞬間、俺は今スイングドアを開いて入ってきた人物を視界に入れた。


 そこには他を寄せ付けない圧倒的な存在感を放つ女性の姿があった。


 彼女のことは今でも鮮明に覚えていた。なぜなら彼女こそが俺の恩人であり、憧れの人だったからだ。

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