Evol.014 希望
「あっ!! すみません!! 失礼なことを言って!!」
「いやいや、気にしてないから頭を上げてくれ」
スフォルはハッとした表情になって自分が失礼なことを言ってしまったことに気付き、物凄い勢いで頭を下げてきた。
そういう反応は慣れているので気分を害したりはしない。
だから彼女の肩をポンと叩いて謝罪を止めさせた。
「それにしても本当なんですか? ラストさんがあの"雑魚"と呼ばれていた人だなんて……先程の強さを見る限り信じられないんですけど」
今の俺と過去の俺がどうしても自分の中で結びつかないらしいスフォル。俺も未だになれないのだから無理もない。
「ああ。本当だぞ。数日前まで俺は本当に"雑魚"だったんだ」
「数日前に何が……まさか!?」
俺の返事を受けて少し俯いて黙った後、答えに思い至ったらしくスフォルはガバリと顔を上げて俺を見た。
「そのまさかさ。俺の
「えぇえええええ!? 二五年も進化しなかったという役割が進化したんですか!?」
俺はニヤリと口の端を持ち上げてみせる。
どんな噂を聞いていたかは知らないが、彼女は進化するはずのないと思っていた俺の役割が進化したことに先程以上の驚きを示した。
二五年も進化しない役割は未だかつて存在していなかったので、そう思われても仕方がない。
「ああ、そういうことだ。俺は進化して"中ボス"という役割になったんだ。今の強さはそのおかげさ」
「そういうことだったんですね。納得がいきました。それにしても進化して数日なのに強すぎるような気がしなくもないですけど」
スフォルは俺の強さが普通の進化とは思えないようだ。通常言われている説に当てはまらないため、その疑問も当たり前だった。
「おそらく二五年間の積もり積もった物が進化に反映された結果なんだろうな」
「なるほど。報われない時があったからこそ強くなれたと」
「ああ。だからスフォルも、もしかしたら進化したら物凄く強くなれるかもしれないぞ?」
俺の予想を聞いて納得するように頷くスフォル。だから彼女にも希望を差し出した。
「本当ですか!?」
「二五年間耐え忍んできた俺がここまで強くなったんだ。スフォルがそうなってもおかしくはない。でもあまり期待し過ぎるなよ?」
スフォルは前のめりに問いかけてくる。俺は彼女を宥めつつ話を続ける。
ただ、期待しすぎるとそうならなかった時の落胆が大きくなるので、そこはきっちりと釘を刺しておく。
「はい……はい……そうですね、期待はしないようにしないと気を付けないといけませんね。駄目だった時が辛いですし……でも、今までそんなことを言ってくれた人はいなかったですし、自分の未来にも可能性があると分かって嬉しいです。本当にありがとうございます」
「だから気にするなって。俺はあくまで自分の体験を話しただけだ。別に感謝されるようなことはしちゃいない」
ちょっと彼女の人生にも希望があった方がいいかなと少し御節介をしただけなのに、余りに真剣に礼を言われしまったので俺は照れて頭を掻いた。
悪い気分はしないけどな。
「それでもですよ。ありがとうざいます」
「分かった分かった。ほら、さっさと帰るぞ、送ってってやる」
「はい!!」
それでも感謝を止めない彼女を見ていられなくなって、踵を返してダンジョンの入り口に向かう。
背後からは俺を追う軽快な足取りが聞こえてきた。
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