Evol.012 モンスター部屋

 ダンジョンには様々なトラップが存在し、その中でも危険視されているものがある。それは室内を埋め尽くす程のモンスターが召喚されるトラップだ。


 特にソロ探索者にとって致命的になりかねない。


 一般的な探索者であれば、適性階層のモンスター数匹程度なら相手に出来るが、何十匹、何百匹も出現してしまうと、どうにかしてモンスターと正面からのみ対峙できるような状況にしない限り捌ききれなくなって詰んでしまう。


 そして、俺の視界の中で、昨日の少女はどう見ても追い詰められていた。


 あそこまで切り込んでいっては間に合いそうにない。魔法を使えば間に合うと思うが、ファイヤーボール以外の魔法の威力はまだ確認していないので人の救援をするという状況で使うには博打が過ぎる。


 だから俺はファイヤーボールを彼女とは別の方向に放った。


―ドォオオオオオオンッ


 彼女の反対側で大爆発が起き、一〇匹以上のモンスターがそれに巻き込まれて死んでいく。それを見たモンスター達はあまりの光景に動きを止めた。


「チャンス!!」


 女性探索者を徐々に追い詰めていたモンスターが動きを止めている間に、俺はモンスターを切り捨てながら彼女の許に駆け寄った。間違いなく昨日逃げていた女性探索者だった。今日も一人のようで仲間たちは見当たらない。


「大丈夫か?」

「え、あ、はい!! だ、大丈夫です!!」


 彼女をまだ残っているモンスターから背に隠しつつ安否の確認をする。チラリと見る限り特に外傷もなさそうだし、返事もしっかりしてるようなので大丈夫そうだ。


「それじゃあ残りを倒してくるからちょっと待っててくれ」

「あ、あのちょっと!!」


 俺はすぐにこちらに敵意を見せているモンスターに向かって駆け出していく。後ろから呼び何か言われたような気がするが、聞こえなかった。


 それから数分後、室内に蔓延っていたモンスター達をあっさりと殲滅した。


「お、お強いんですね……」


 モンスターを全滅させて戻ってきた俺を呆然と見つめながら呟く彼女。


「まぁな。それにしても昨日といい、今日といい。一人でいるけど、他のパーティマンバーはいないのか?」

「昨日?……あっ無防備の人」


 以前から気になっていた質問を投げかけると、答えの前に昨日の大行進の時の事を思い出し、俺が誰かをようやく認識したようだ。


 ただ、その呼び方はないだろう、とも言えないか……昨日の俺の行動を鑑みるに。


「誰が無防備の人だ。俺にはラストという名前がある」

「あ、あのすみません!! 私はスフォルと言います。昨日に引き続き今日も助けていただいてなんとお礼を行ったらいいか」


 それでも抗議はしておこうと呆れつつ名乗れば、彼女は凄い勢いで頭を下げた後で自己紹介をして礼を述べた。


 改めて見る彼女はかなりやせ細り、やつれている。


 まだ十代半ば頃の見た目で、ショートヘアーの黒髪を持ち、前髪で片方の目を隠しているが、大きな瞳と整った鼻筋、そして形のいい口元の可愛らしい女の子だ。


 健康状態がよくなれば周りが放っておかないのではないだろうか。


「気にするな。たまたま目の前に経験値が沢山いたから倒させてもらっただけだ。それでどうして一人なんだ?」

「えっと……その……置き去りにされまして……」


 話が脱線したが俺が話を戻すと、彼女は言いづらそうに事実を述べる。

 

「え、マジか!? それは仲間を見捨てたってことか!?」


 置き去り行為は探索者として非常に悪質な行為だ。


 それが知られれば、こいつは危なくなれば仲間を置き去りにするような奴だというレッテルを貼られ、パーティを組むのが難しくなる。


 だからこそ余程のことがなければそんなことはしない。


「いえ……あのその……私が悪いんです……私が皆を巻き込んでしまうから」


 彼女が申し訳なさそうに肩を落として語る。


「どうやら事情がありそうだな」

「はい、原因は私の役割のせいなんです」


 何かあると思っていたが、その言葉を聞いて俺は他人事とは思えなくなった。

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