Evol.011 初めての魔法

「来ぃたぁぞぉおおおおおおおっ!!」


 俺はダンジョンに入るなりテンションが上がりすぎて大声で叫んでいた。進化クラスチェンジしてからワクワクの連続で興奮が止まらない。


「うるせぇ!!」

「あ、はい、すいません」


 しかし、同じ時刻に入った他の探索者に怒鳴られてしまった。


 完全に今のは俺が悪い。


 すぐに申し訳なさげに頭を掻きながら平謝りをする。俺に怒鳴った男は俺を一瞥した後で不機嫌そうに鼻を鳴らすと、他のパーティメンバーと共にダンジョンの奥へと潜っていった。


「はぁ……ちょっとテンション上げ過ぎたな……」


 俺は大きく息を吐いて反省する。


「さて、今日もゴブリン君に実験台になってもらうぞ!!」


 今やゴブリンはただの的になってしまっていた。二五年間を通して戦い続けてきたので、ゴブリン君には案外愛着と言うか親しみを感じていたはずなんだが、数日前が懐かしい。


「見つけたぞ。何の魔法から試そうかな……」


 ゴブリンを見つけたのでどの魔法から試すかを思案する。


 最下級の魔法はそれぞれ一つずつしか魔法を使うことが出来ない。火なら火の玉が前方に放出されるファイヤーボール。水なら水球が発射されるウォーターバレット。風なら緑色の風の刃が敵を切り裂くウィンドカッター。土なら飛礫が敵を襲うストーンバレット。


 これが今俺のが使うことが出来る魔法だ。


「やっぱり派手なファイヤーボールからかな」


 魔法に憧れていた俺としてはやっぱりド派手な攻撃魔法に憧れる。ということで四つの中で一番派手であろうファイヤーボールを選択した。


「いくぞ、ファイヤーボール!! うぉっ!?」


 未だに俺に気付いていないゴブリンに手の平を向けて魔法名を唱えた途端、体の臍の下くらいの場所から何らかの暖かいものが手の先に集まり、成人の大人の顔よりも少し大きな青い火の玉が姿を現した。


「ゴブッ!?」


 火の玉は目立つため、すぐに俺に気づいたゴブリン。


 しかし、時すでに遅し。


 ファイヤーボールは俺の掌の前からゴブリンに目指して矢の如く飛んでいた。


―ドォオオオオオオオオオンッ


 そして着弾と同時に大爆発を引き起こす。


「はぁ!?」


 俺は最下級魔法とは思えない威力を発揮した目の前の光景に、爆風でバサバサと髪の毛と衣服を揺らしながら驚愕で顔を歪めた。


 俺は過去に最下級の魔法を見たことがあるが、これほどの威力だった覚えはない。対象にぶつかると軽く爆発する程度だったはずだ。


 それなのに、俺が放ったファイヤーボールはどう見ても最下級などという括りでは計り切れない威力があった。


「いやぁ……これ、ゴブリンじゃ威力を測り切れないな……」


 どう見てもゴブリンではオーバーキルなので、昨日同様に五階層まで急ぎ足で進み、もう少し強いモンスター相手に試してみることにした。


「いやぁああああああああっ!!」


 しかし、五階層に辿り着き、手ごろなモンスターを探していると、昨日と同様にまた悲鳴が聞こえた。


 しかもその声には聞き覚えがあった。


 俺が急いでその声のする方に走っていくと、広い部屋で多数のモンスターに囲まれながら必死に戦う女性探索者の姿があった。


 彼女は昨日大行進デスパレードに巻き込まれていた少女であった。

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