Evol.008 カモがネギしょってやってきた
俺の方に駆けてくるのは一人の女性探索者。どこから逃げてきたのか分からないが、やつれていてかなり疲弊しているようだ。
「すみませんそこの方!! え、なんでそんな恰好でこんなところに!! 逃げてください!!
「なんだと!?」
大行進とは、倒しきれないほどのモンスターがどこからともなく押し寄せてくる現象だ。こんな低階層で起こることは滅多にないのだが、その滅多にないことが起こってしまったようだ。
それは逃げるしかない。
「ん?」
いやちょっと待て……本当にそうか?
俺は自問する。
モンスターの大軍を見る限り、どれも低階層で出るモンスターばかりだ。それに俺はレベルアップで一般
あの程度のモンスターなら負けることはない。そう考えたら、俺はむしろこの
「気にするな。先に行け」
「え!? 何言ってるんですか!? そんな無防備だと死んでしまいますよ!?」
俺の言葉に驚く女性探索者。
浮かれ過ぎて防具なしで剣を持っているだけだからそんな風に言われるのも仕方ない。
「大丈夫だ。ここは俺が引き受けるからそのまま逃げてくれ」
「巻き込んでおいて放置なんてできません!!」
俺が剣を構えると、彼女は俺を少し通り過ぎたところで立ち止まる。
「安心してくれ。死ぬつもりはない。必ずダンジョンから帰ってみせる。あんたは先に行ってくれ」
巻き込まれて俺が死んでしまうのが嫌なのだろうが、もうあの程度の相手に死ぬことはない。だからできるだけ余裕に見えるように話して彼女を安心させる。
「本当ですね? 待ってますから!!」
「ああ、任せておけ」
「絶対に死なないでくださいね!!」
女性探索者は俺との約束を強調して去っていった。
「そんじゃあ、ここを通りたければ俺を倒していけってか?」
俺は迫りくるモンスターを相手に舌なめずりしてニヤリと口端を釣り上げた。
「うぉおおおおおおおっ!!」
俺はモンスターの大軍に突っ込んでいく。
―ズバァンッ
モンスターが一撃で露となって消える。
「はぁああああああああああっ!!」
これはいける。
そう確信した俺はがむしゃらに剣を振りまくる。一匹も逃がさないように。俺の経験値として美味しくいただくために。
雑魚時代の七七〇倍の能力値が敵を襲う。奴らはなす術なく俺に切り捨てられて消えていく。
途中で何度かレベルも上がって処理速度が加速していった。
「はぁ……はぁ……」
二時間ほど戦い続けた時、モンスターの影は一匹もいなくなっていた。
「終わったぁ!!」
俺は心地の良い疲労感に包まれていた。
目の前には大量の魔石が落ちていたが、バッグなどを持ってきていなかったし、元々レベル上げたいだけだったので、良い物からポケットに入るだけ詰め込み、残りはその場に放置して帰還した。
「お、おい、大丈夫か!? 大行進が起こったと聞いたが!?」
ダンジョンの入り口から出ようとしたところで高ランクっぽい探索者のグループが駆け込んできた。
大行進を鎮圧するために集められた人員だろう。
「ん? ああ、大行進なら終わらせておいたぞ?」
「はぁ?」
俺が軽い口調で言ったら、先頭に居たイケメン騎士風の探索者は驚愕で顔を歪ませた。
「別に疑うなら五階層に行ってみるといい。今ならドロップアイテムもまだダンジョンに再吸収されてないだろ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「悪いな。俺は疲れてるんだ。用があるなら明日以降にしてくれ」
引き留められるのを無視してその場を後にし、宿に帰って水で汚れを流して泥のように眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます