Evol.002 待ち望んでいた瞬間
次の日もいつもと同じようにダンジョンに潜る。
俺は最後となる五匹目のゴブリンと戦っていた。
「ゴブゴブ」
「くっ」
ゴブリンが俺にこん棒を振り下ろし、それを必死に受け止める。もうレベルの限界が近いというのに、未だにゴブリンの攻撃を防ぐのに苦労してしまうのは情けない話だ。
「はぁー!!」
幾度もギリギリの命のやり取りを行い、満身創痍になったゴブリンに対して俺は持っていた剣を構えて袈裟斬りにした。
「ゴブゥ!!」
断末魔と共に燐光を放ちながら消えていく。
「はぁ……はぁ……」
今日も生き延びることができた。
その安堵と共に汗を拭い、剣についた汚れを落として帰り支度を始める。
ただこの日は違った。それは突然起こった。
二十五間変わり映えのしない日常では起こりえない現象。
俺の体が発光し始めたのだ。
「やっと……やっとか……」
俺は思わず声を上ずらせてつぶやいてしまう。
俺は知っていた……この光が何なのか。
これまで二十五年の間、嫌というほど見てきた。いや見せつけられてきた。なぜなら同期達や後輩たちがよくギルドで起こしていた現象だからだ。
そう……これは神に与えられた
役割を極限まで鍛えると一度だけ役割が進化する、早い者は数カ月ほどで、遅い者でも数年ほどで。
しかし、俺の得た役割はこの二十五年進化できなかった。
理由は簡単だ。
俺の役割が史上最低の弱さだったのと、その弱さとは裏腹にレベル上限が九九という未だかつて誰も見たことがない最高数値だったからだ。一番高い人でも八〇だったと記憶している。
でもそれも今日で終わりだ。俺はようやく進化できる上限に辿り着いた。それを実感すると、これまでの人生が報われたような気分になった。
「俺は進化できるのか……」
俺は光に包まれながら立ち尽くした。
「ぐがっ!?」
しかし感動も束の間、俺の体を激痛が駆け巡った。
進化の時にこんな痛みが走るなんて聞いてないぞ!!
俺が実際に見ていた進化は光った後、その光が納まれば完了のはずだった。痛みや体の具合がおかしくなったなどとは誰も言っていなかった。あまりの痛みに俺は立っていられなくなり、ダンジョンの中にも関わらず倒れ込んで転げまわる。
ぐがっ!? くそ!!
こんな所をモンスターに襲われたらひとたまりもない。しかし、痛みで起き上がるどころではなかった。
俺の体は一体何が起こってるんだ!?
「ぐわぁああああああああああああ!!」
ひと際凄まじい痛みが体を襲い、横になったままもがき苦しむ。
もう頭の中がぐちゃぐちゃで何が何だか分からない。
誰か助けてくれ!!
痛すぎて言葉にできないが、誰かに助けてもらいたくて心で叫ぶ。当然その声は誰にも届くことはない。
どれほどそうしていただろうか、数秒なのか、はたまた数時間なのか、全く分からない。ただ、悠久にも感じる時の中で徐々に痛みが和らいでいくのを感じた。
やっと……この地獄が終わるのか……。
その可能性に一安心したが、俺の受難はまだ終わっていなかった。
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