【WEB版】雑魚は裏ボスを夢に見る~最弱を宿命づけられたダンジョン探索者《シーカー》、二十五年の時を経て覚醒す~

ミポリオン

第一章 覚醒と決別

Evol.001 雑魚

書籍版とWEB版で内容が異なります。

あらかじめご了承ください。


◼️◼️◼️


 辺りは凸凹した岩壁に囲まれた洞窟。灯りはないが、岩肌が淡く発光し、ある程度視界が開けている。


 ここはダンジョン。


 迷路のように入り組んだ地形で、ゴブリンをはじめとする異形の存在、通称モンスターが人々を襲ってくる危険地帯。


 しかし、その内部には地上では見られない様々な価値ある資源やお宝、武器防具、そして道具等が眠っており、一攫千金を夢見て多くの人間が日夜ダンジョンに潜っていた。


 かくゆう俺もその中の一人である。


「はぁ!!」


 俺は目の前のゴブリンを切りつけた。


「ゴブゥッ!?」


 攻撃を受けたゴブリンはそのまま倒れて空気に溶けて消える。残ったのは魔石と呼ばれる八面体に近い歪な形の小指の先ほどの石が一つだけだ。


「はぁ……はぁ……やっと五匹目か……」


 五匹。これは俺が一日かけて倒したゴブリンの数だ。


 ゴブリンはダンジョンでも最弱のモンスター。それを俺は一日かけても五匹しか倒すことが出来ない。


 それは俺が一匹のゴブリンを倒すのにとんでもなく時間がかかることと、俺が弱すぎて複数のゴブリンを相手にできないため、一匹だけ逸れているゴブリンを探すのに凄く苦労することの二つが起因していた。


 五匹倒せればどうにか今日明日の分の宿代にはなる。


 俺はこれをもう二十五年間繰り返していた。


 ダンジョンに潜って生計を立てる者を探索者シーカーと呼ぶが、他の同期の連中はとっくに高ランク探索者であるBランク以上になっているか、見切りをつけて他の仕事で一旗揚げていた。


 それなのに何故二十五年もゴブリン狩りを続けているのか。


 それはこの年になっても未だに探索者の最高ランクであるSSSランク探索者になる夢を諦めきれなかったからだ。


 これはとある人物との約束だった。俺はとの約束を絶対に守りたかった。


 それにまだ希望もある。


 それがダメだと分かるまでは諦めるわけにはいかなかった。


「はぁ……はぁ……すーはー。今日も生き延びれた……」


 俺は深呼吸をして息を落ち着けた後、今日も怪我をせずに無事に終えられたことに安堵して、ダンジョンの一階層から地上へと戻った。




 地上に帰ってきてから俺がやってきたのは探索者の扶助組織であるギルド。屋内はまるで役所のような造りになっていて、なじみの受付嬢の許に向かう。


「これが報酬になります。お疲れ様でした」

「ありがとう」


 受付との事務的なやり取りをこなして報酬を受け取る。


 それ以上の会話はない。将来有望な新人や高ランク探索者であれば別だが、最下位の探索者である俺を気にかけるような受付嬢はいない。


 悔しいが、仕方のない現実だった。


「おい見てみろよ、あいつ例の『雑魚』だろ?」

「今日も共食いしてきたのか? いい加減そろそろ諦めたらいいのにな」


 俺が探索者ギルドから出ようと入り口に向かう途中、ギルド内にいる他の連中が俺をジロジロと蔑むような視線を投げつけて陰口を言う。


『雑魚』というのは俺の役割ロールの事だ。


 役割とは十三歳の時に神から授かる恩恵のことで、その役割に応じて自身の能力やスキルが変動する。しかし、昔俺を助けてくれた探索者に憧れてダンジョン都市にやってきた俺が授かった役割は『雑魚』という史上最低最悪の代物だった。


 最低の能力値に、固有のスキルも共通スキルも一切なし。文字通り『雑魚』という名にふさわしいステータスそのもの。


 そして共食いとは、『雑魚』である俺が最弱の雑魚モンスターであるゴブリンを狩っているのを揶揄する言葉だ。


 俺は立ち止まって自分のギルドカードを取り出して自身のステータスを確認する。


――――――――――――――――――――

名前  ラスト・シークレット

種族  普人族

役割  雑魚

レベル 98/99

能力値

力  :1

体力 :1

魔力 :1

敏捷 :1

器用 :1

運  :1

スキル

――――――――――――――――――――


 浮かび上がった半透明の板の上には、二十五年間変わらない能力値と意味もなく上がるだけのレベルの値が浮かび上がっていた。能力値は以前までは最低が一〇だと思われていたが、俺の役割が叩き出したことで一が最低だと認識されるようになった。


 これは最弱のモンスターのゴブリンと変わらないステータスだった。いや、むしろゴブリンよりも低くて、装備でどうにか倒している状況だった。


「はぁ……やっぱり上がらないのかなぁ……」


 レベルはもうかれこれ五年上がっていない。それはまだ経験値が足りないのか、もうゴブリンでレベルを上げることができないのか。原因は分かっていない。


 しかし、縋れるのはもうそこだけだった。


「いやぁ!! つかっれたなぁ!!」

「そうね。やっぱり中層以上はハードだわ」

「長期休暇が欲しい」

「今回のダンジョン探索は長かったから、しばらく休みにするよ」


 その時、俺よりも一回りは下の年齢の、俺とは比べ物にならないくらい高品質の武具を身に着けた探索者のパーティが、スイングドアを勢いよく開けてギルド内に入ってきた。


 彼等はの中でも出世したパーティの一つで、Bランク探索者にまで上り詰めている。


 彼らの見た目が俺よりも若いのは魔力が関係している。基本的に魔力が高ければ高いほど長生きする。彼らはそれだけ魔力の能力値が高いということだ。


「お、雑魚じゃん。まだ死んでなかったのか?」

「ホントだ!! まだ探索者やってるのね? いい加減辞めたら?」


 そのメンバーの戦士の男と魔法使いの女がバカにするように俺に絡んでくる。


「もう関わるやめよ。同じ空気吸ってるのも嫌」

「そうだね。君の努力は称賛に値するけど、無意味な努力は止めた方がいい。人には分相応というものがあるんだからね」


 俺がごみだとでも言いたげに視線を逸らし、僧侶の女は口元を押さえながら俺から離れていく。リーダーの男は俺の肩に手をポンと置いて憐れみの表情で忠告した後、受付へと向かった。


 揶揄っていた戦士と魔法使いの女も二人に続いて俺から遠ざかっていく。


 相手は俺を一撃で殺すことが出来るような強者。俺はただ俯いて悔しくて歯を噛みしめることしかできなかった。


 これが俺の、いや『雑魚』の日常だった。




■■■■■


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 どうぞよろしくお願いいたします。


◆最低ランクの雑魚モンスターしかテイムできないせいで退学させられた最弱テイマー、『ブリーダー』能力に目覚め、やがて規格外の神獣や幻獣を従える英雄になる

https://kakuyomu.jp/works/16817330668950536263

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