何でいっつも一人で本読んでるの?
「何で花恋(かれん)ちゃんはいっつも一人で本読んでるの?」
高校二年生の一学期中間テストも終わった六月の初め。
そんなとんでもない質問に顔を上げると同じクラス女子――
藤咲(ふじさき)が困った顔で立っていた。
困っているのはこっちのほうだというのに。
彼女は普段こんな嫌みのような事を言ってくる様な子ではないはずだ。
おおかた向こうのグループが大声でしていたじゃんけんの罰ゲームが私に話しかける事だったのだろう。
悩んだ末なのだろうが、ひどい事を聞いてくる。
「本が好きなんだ」
「そうなんだ……」
そんなに気まずそうにしないでほしい、なんだか私が困らせているようじゃないか。
「それじゃ」
居心地が悪くなってしまったのでそう言い残して席を立つ。
学校で私が落ち着いていられるとしたら自分の席か、トイレの個室しかないというのに。
私のパーソナルスペースの半分が奪われてしまった。
そんなことを考えながら最後の砦であるトイレに向かう。
「え……」
しかし、トイレに入るととんでもないことが起きていた。
すべての扉が閉まっているのである。
私はこれからどうすればよいのだろういっそのこと家に帰ってしまおうか。
「あの」
肩をたたかれて振り返る。
そこに立っていたのは藤咲だった。
「花恋ちゃん、さっきは突然ごめんね」
なんだ謝罪か。
てっきり、グループ内で先ほどの会話だと足りないとなり、追い打ちをかけに来たのかと思ってしまった。
もしそうなら本当に家に帰ってしまっただろう。
「謝罪ならいいよ。あなたも仕方なくやらされただけなんでしょ?」
「え、もしかして聞こえてた?」
「じゃんけんの声だけは」
「本当にごめん」
「いいって」
また困った顔をさせても嫌なのでそう言って私はトイレから出る。
すたすた歩く。
もう話しかけないでほしいという意図を込め、不自然じゃない程度に早歩きで廊下に向かう。
「ちょっと待ってよー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます