第12話 美女と珍獣

 公園でいつまでもSFめいた話をし続けるのも何なので、近くのカラオケボックスへ移動した。

 

ここは子供にも優しい所で、フルフラットのクッションルームもあるし、授乳室やオムツ替えの施設もあるのでとても助かる。

 部屋に娘を寝かせておけるし、万が一目覚めても、おもちゃの貸し出しもあるのでなんとかなる!

 こういうとこあるとホント助かるわ。


「つーか、なんでオレ、おくるみでグルグル巻きにされてんの?」


 娘用のおくるみで包み込まれ、手足を動かせなくなったモグリンが不服そうな声をあげた。


「ロープがなかったから」


 ロープというか拘束具的な?

 モグリンのサイズなら、おくるみでも充分簀巻きにできるのでちょうどよかった。


 ていうか、おくるみでぐるぐる巻きにされた赤ちゃんって初見だとけっこうびっくりするよね。


 最初にその姿を見た時、「大丈夫か? 苦しくない?」などと思ったものです。

 でも、生まれる直前って、狭いお腹の中にいたわけで、生後数か月くらいは、何かでがっちり包まれていると安心するのだとか。


 うちの娘はもう8ヶ月なんで、ぐるぐる巻きにすることはなくなったけど、ベビーカーで寝ちゃった時とかにブランケット代わりにかけたりできるので、ベビーカーに積み込んでいたのだ。


「そういうこと聞いてんじゃねぇ!」


 芋虫状態でぴょんぴょん跳ねながら怒鳴り散らすモグリン。

 うるさいなぁもう、娘が起きたらどうすんだ。

 私はハラハラして、娘の顔をチラ見した。


「なんで拘束すんのかって聞いてんだよ!」


 モグリンの怒鳴り声に、しかし、娘はまったく気づかず眠っている。

 まぁ、これならちょっとくらい話していても起きないだろう。


「だって、王女様とモグリンで話が矛盾するんだもん」


 モグリンは地球人ではない。

 こことは違うどこかで、モグリンよりも偉い人から指令を受けて動いているに過ぎない。


 もし、その指令が『地球という星の環境を守るために人類を衰退させる』なんてものだったとしたら。

 王女様が人類を守ろうとしているのを知って、それを邪魔するために私と娘を利用した。

 ということもありうる。

 ということで――


「美女と珍獣だったら、どう考えても美女の方が正義でしょ?」


 王女様とモグリンを見比べて、私はきっぱりと断言した。


「矛盾してんなら、オレを信じろ! 元相棒だろてめぇ」


 私の宣言に、しかしモグリンは怒り心頭といった様子で異議を申し立てる。


「相棒だったからこそ、モグリンの人間性が信じられないというかなんというか……」


 モグリンは、この件はおかしい、黒幕がいるかも。

 なんてことを話していた。

 もし、モグリンが黒幕なら、わざわざ私にそんなことを告げる必要はないはず。


 ……と思わせて、黒幕でした。

 というのが、めっちゃありそう。

 自分の利益になるなら、平気で嘘つくから、この生き物……。


「くそっ、これだから年増は……」


 『年増』その言葉に、思わず額に青筋が立ってしまう。

 ちょうど、ぐるぐる巻きだし、いっそこのまま東京湾に捨ててしまおうか。

 などと考えていると――


「てめぇもだレイル!」


 モグリンが顔だけぐりんと動かして、王女様を睨みつける。

 しかし、王女様はビクっとすることもなく、可愛いハムスターでも眺めるかのごとく、嬉しそうにニコニコと微笑みながらモグリンを見つめていた。


 そんな王女様の様子に、モグリンは「はぁ」と深いため息をついた。


「はぁ、あの頃は可愛かったのに、こんなに育っちまって……」


(って、落胆するトコそこかよっ!)


 王女様を頭からつま先まで眺めて、心底悲しそうにため息吐くとか。

 本当、ブレねぇなコイツ。


「つーか、電子生命体をけしかけたのてめぇだろ?」


 やれやれといった様子でモグリンがそう言うと。


「あはっ、やっぱりわかる?」


 王女様はまったく動じることなく、愛らしい笑みさえ浮かべて肯定した。


『え……?』


 思わずハモる私と旦那。

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