第11話 食い違う説明
「ごめん。1回整理させて。ええと、この世界に侵攻中の生命体の名前は?」
なんとなく嫌な予感がして、そう問いかけてみた。
「電子生命体」
旦那は放心したまま、ぽつりと答える。
(やっぱり……)
「つまり、その電子生命体の侵攻を防ぐために、ポスターのQRコードに防御プログラムを仕込んだと?」
「ああ、ちょうどスタンプラリーの案件を手伝っている時にレイルに声をかけられてさ」
言って、ちらりと王女の顔を見る。
「そこからは、私が説明致します」
それまで、下がって様子を見守っていたレイルが前に出る。
「実は私の国も電子生命体により壊滅の危機に陥ったことがあるのです」
そういえば、モグリンがどこかの国にバグった電子生命体が出現して大変だったと言っていたような……。
よくあることなのかも。
「そこで、電子生命体の動きを注視していたところ、こちらの世界へ侵攻しようとしていることを知り、旧知の彼を頼って、やってきたのです」
「なるほど……」
筋は通っている……ような気がする。
だけど、モグリンは、『電子生命体はバグって出てくることはあっても、計画的に侵攻してくることはない』とも言っていた。
「なんで、QRコードに防御プログラムを組んだの?」
そこがどうにもわからない。
どうして、わざわざ地電のスタンプラリーに仕込まなくてはいけなかったのか。
「ネットワークの隙を突き、脆弱な箇所からネットに侵入するであろうことはわかっていたので、逆に罠をはったのです」
王女様がそこまで説明したところで、補足するかのように旦那も口を開いた。
「電子生命体ホイホイというか。あえてそこに集まるように仕組んでおいて、その間に脆弱な箇所を修復。集めるだけ集めたらレイルが魔法で圧縮して、元いた世界に帰す予定だったんだ」
「ホイホイねぇ」
モグリンは伝声生命体がゲートの向こうにひしめいていると言っていた。
旦那の作った防御プログラムとやらが、電子生命体ホイホイなのであれば、電子生命体が集まっていても不思議じゃない。
「どうやって集めてるの?」
「電子生命体は外に出て電気を食いたいんだ」
私の問いかけに、旦那がメモ帳に図を描きつつ説明していく。
「だから、ここからなら簡単に出られると思わせる。頑張れば壊せそうな壁と押せば開きそうなドア、その二つがあったらどっちから出ようと思う?」
「ドアがあるなら、ドアから出るね」
「だよね。だから、ドアを作った。ただし、固く施錠して」
さらさらとドアを描き、南京錠の絵も描き足していく。
何気に絵、上手いんだよな。いいな。うやらましいな。
「その施錠が防御プログラム」
南京錠の絵の横に→を書いて、防御プログラムと書き込んだ。
(ああ、だから、ゲートがあるのにまだ開いてなかったのか)
と、モグリンの言葉を思い返しながら考え込んでいると。
「それでその……奥様はどうして、防御プログラムを破壊されていたのでしょうか?」
おずおずと王女様が問いかけてきた。
「防御プログラムっていうか、ゲートをクラッシュしていたんだけど――」
私はモグリンのことや、モグリンから頼まれて娘と共にゲートをクラッシュして回っていたことを簡潔に話した。
「そうですか……モグリン様が……」
王女様が右手を口元に添えながら、意味ありげに呟く。
(いや、モグリン様て……)
あんなん『様』つけて呼ぶような高尚なもんじゃないぞ?
「きっと何か思い違いをされているのでしょう」
言って、悲し気に目を伏せる。
(思い違い……本当に……?)
モグリンは、電子生命体はバグらない限り温厚で、攻めて来ることはないと言い切った。
しかし、旦那は「危険な異次元生命体がこの世界に侵攻中」と言った。
ゲートのところに電子生命体がひしめいている。
この情報は両者共通。
モグリンはゲートが開くと大変だから、クラッシュしないといけないと言った。
でも、そのゲートには鍵がかかっていた。
すぐさまクラッシュしなくても問題はない。
むしろ、ゲートをすべてクラッシュしてしまえば、トラップにひっかかって足止めされるはずだった電子生命体が、脆弱な壁を壊して、ネットになだれ込んでしまうかも……?
あいつ、それを見抜けない程、無能だったっけ?
むしろ――
「あのっ、それでモグリン様は今どこに?」
ずいっと前のめりになり、レイルが瞳をうるうると潤ませながら問いかける。
う……。なんか必死だな。
「ええと、いつもはぬいぐるみの振りをしてベビーカーに乗っかっているんだけど……」
言いながら、ベビーカーに目を向けると、王女様がバッとそちらに顔を向けた。
「今日はなんか調べものがあるとか言って……」
そこまで言うと王女様がしゅんと肩を落としてしまう。
「あっ、来た!」
と、ちょうどモグリンがこちらへ向かってふよふよと飛んできた。
謎の生き物が空を飛んでいたら騒ぎになりそうなものだけど、一応、ジャミングっぽい謎電波などを発して、見てしまった人の視覚情報を惑わせて、脳が見ていないと判断するようになっているとかなんとか。
「わりぃ、わりぃ、遅くなった……って、やべっ」
モグリンは、美女を見るなり、ダッシュで逃げ出した。
「こら待て、諸悪の根源っ!」
言いながら追いかけると、
「誰が諸悪の根源じゃいっ!」
立ち止まって言い返してきたので、あっさり捕獲した。
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