第10話 世界の危機
「こ、これはその……」
言い逃れのできない状況に、慌てふためく旦那。
仁王立ちで睨みつける私。
「3連休は美女と同伴デートですか? いいご身分ですねー」
言葉に感情が入らず、つい棒読みのようになってしまう。
「い、いや、これは違っ! えと、だからその……」
さぁて、どんな言い訳をするのかなー?
仕事とか言い出したら、徹底的に調べてやる!
と、思ったら――
「世界の危機なんだ!」
悲痛な声でそう叫ぶ。
……いや、まぁ、そういうコトなくもないけど。
絶賛、世界の危機中だけど……。
そう、ほいほい、危機になってたまるかー!
なんつー嘘をつくんだ、まったく……。
「そうだね。危機だね。家庭の」
にっこり笑って、旦那の肩に手を置いた。
「いいえ、本当に世界の危機なのです」
旦那の隣でおろおろしていた可憐な美女が、意を決したように私の前に歩み出てそう告げた。
「申し送れました。私はマジカルワールドの王女、レイルです」
美女が優雅なしぐさで頭を下げる。
「あ、どうもご丁寧に」
つい反射的に頭を下げてしまう。
すると、私と旦那が険悪な雰囲気だったからか、娘が泣き出したので、とりあえず、近くの公園に移動して、娘をあやすことにした。
寝ぐずっていた娘は、ベビーカーで移動中、揺れが心地よかったのか、公園についた時には眠っていた。
一応、モグリンにも公園に移動したよとメッセージを送り、自動販売機で飲み物などを買ってから、公園のベンチに腰掛けた。
「で? 世界の危機って何?」
落ち着いたところで、美女と旦那に問いかけた。
すると、旦那と美女は困ったように顔を見合わせる。
まぁ、本当にそうだったとしても、一般人にそんな話をするのはためらわれるわな。
「見え透いた嘘だとは思ってるけど、万が一本当だったら困るから、ちゃんと話は聞くよ」
そう促すと、旦那が重い口を開いた。
「危険な異次元生命体がこの世界に侵攻中なんだ」
深刻な顔でそう告げる。
「ふぅん。宇宙からの来訪者的な?」
これが見え透いた嘘ならば、こちらの話に乗っかって「そんな感じ」とでも答えることだろう。
しかし――
「いや、上手く説明できないんだけど、世界と世界の間にはそれらを隔てている不可視の壁があって普段は行き来できないんだけど……」
(おや? これは、もしかして……)
それは私のよく知る話だった。
「脆弱な箇所もあるからそこを狙って攻撃をしかけてくるんだよ」
旦那は困惑しつつも一生懸命、言葉を選んで語っていた。
(嘘ついてるって感じじゃないんだよなー)
「なるほどね」
この王女様もモグリンとは別口で電子生命体を追っているのか。
それとも、電子生命体とはまた別の何かなのか……。
と、考え込んでいたら。
「え……? 信じてくれるの?」
旦那がびっくりした顔で呟いた。
「嘘なの?」
反射的に問いかけ、眉をひそめる。
こんな設定、ほいほい出てきたんだとしたら、それはそれですごいな。
「いや、本当だけど……。こんな話、普通信じられないかなって」
わずかに遠い目をして言う。
ああ、なるほど。
そういうことなら私も理解できる。
普通の人に、「スタンプラリーじゃなくて、ゲートクラッシュしてます」なんて、言っても信じてもらえる気がしない。
「まぁ、私も昔、魔法少女とかやってたし……」
私は頬をぽりぽりとかきながら、小声でそう告げた。
ああ、気恥ずかしい。
「マジ? 俺も高校ん時、地球防衛部とかやってたんだよ」
「ファッ!?」
予想外の返答に一瞬固まってしまった。
「ここにいるレイルに頼まれて、5人くらいで地球救ってさー。いやぁ、世界って狭いな」
懐かしそうに言い、私の肩をぽんぽんっと叩く。
(よもや身内に不可思議仲間がいようとは……)
「そっか。実は私も今、絶賛、世界の危機救い中なんだよねー」
「え!?」
話の流れでなんとなく暴露したら、今度は旦那が固まった。
「ど、どういうこと……?」
「地電のスタンプラリーやってるって言ったでしょ?」
「あ、あぁ、それは聞いた……けど……え? でも、まさか……」
何か思い当たる節があるのか、深刻そうな顔で黙り込む。
「そこのQRコードに次元のゲートが仕込まれていて、そこから電子生命体があふれ出てくるから、ゲートが開く前にクラッシュして回ってるんだけど……」
と、話す中、旦那の顔色が目に見えて青くなっていく。
「いや、えっ……? じゃあ、俺の仕込んだ防御プログラムを破壊していたのって……」
防御プログラム……?
そんなのは初耳だ。
この言い方だと、その防御プログラムとやらはあのQRコードに仕込まれていたっぽいわけで……。
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