第7話 トラップ多すぎ

「え? 何このダンジョン。トラップ多すぎない?」


 一日券を購入し、スタンプラリーの情報もゲットして、あとは巡るだけ~。

 なんて気軽な気持ちで挑んだものの。


「つーか、こっち階段じゃん!」


 『スタンプラリーこちら⇒』の紙が貼られているのは、ホームドアすらないホームのはじっこにある階段の前だった。

 おそらく、この階段を登った先、改札の手前にポスターが貼ってあるのだろう。


「エレベーターあるの逆の改札なんですけどー?」


 思わず、ホームの別改札方面を指さしながら叫んでしまった。


 砂南駅。この駅には何度か訪れたことがある。

 ここから、少し行ったところのショッピングモールに、お手頃価格な子供服のチェーン店があるので、娘の服や離乳食用品などを買いに来たのだ。


 ホームから改札へ向かうエレベーターがあり、改札から地上までもエレベーターで行くことができる。

 まさに、バリアフリー! ベビーカーにも優しいぜ!

 な駅なのだが……。


「しょうがねぇだろ、ゲートがあんのはこっちの改札内なんだから」


 無情にも、QRコードのあるスタンプラリーのポスターは、階段でしか行けないこっちの改札内に貼られているらしい。


「んで? どーする?」


 モグリンがイラついた目を向けて来る。


「娘を抱っこしつつ、ベビーカー片手にこの階段上るか? それとも、反対側まで行ってエレベーター乗るか?」


 言いながら、娘の乗っているベビーカーをトントンと叩いみせた。


「確かに反対側の改札なら、ホームから改札までと改札から地上までエレベーターがあるけど……」


 それで地上に出たとして、地上からこちらの改札へ向かうエレベーターがあるのなら、その方法もありだろう。

 だが、しかし――


「そこから地上を回ってこっちの出口に行ったところで、改札まではやっぱり階段っていうね……」


 ゲートは改札内にあるらしいので、この階段を登って降りてくるか、もしくは反対側から回り込んで、階段を降りて改札に入り、ゲートをクラッシュした後、更に階段を降りてホームへ向かうしかない。


 外から回るのは面倒なので、仕方なく娘を抱っこ紐の中におさめ、ベビーカーを畳んで片手で持って階段を登る。


「うっわ、一歩毎にめっちゃHP減ってくんですけどー」


 8kgの娘を抱っこしつつ、片手に5kgはあろうかというベビーカーを持って階段を上がっているんだから、そりゃ体力も減るってもんですよ。

 うおぅ、腰の耐久値ゲージがもりもり減ってく!


 腰のゲージが0になると、腰の骨と骨の間にある椎間板がむにっとはみ出して神経を圧迫するとのことで……。

 ハッキリ言って超激痛!

 しかも、今授乳中だから、効き目のささやかな鎮痛剤しか使えないという地獄。

 更に整形外科通い(リハビリ)必須!

 乳児抱えてリハビリとか無理!


 HPはともかく、腰は……腰だけは壊すわけにはいかんのです!


「ねぇ、モグリン。これ表向きは普通のスタンプラリーだよね?」


 ぜいぜいと荒い息を吐きながら、隣に浮かぶモグリンに問いかける。


「そのはずだが?」


 憐憫の瞳で私を見下ろしながら言う。


「なんかものすごく難易度の高いダンジョン系RPGやってる気分になるんだけど……」


 たった、数駅クリアしただけでこの疲労感。

 正直、短期間でクリアできる気がしない……。


 『スタンプラリーこちら⇒』と書かれた貼り紙を信じてまっすぐいったら壁際にはどこにもポスターが貼ってなくて、しばらくうろついた挙句、柱の裏に貼られたポスターをやっとのことで発見したり。


 大きな駅の複雑極まる地下街の中、ここどこ? 隠し通路? ってぐらい人気のない細い通路の先にあったり。


 バリアフリールートが複雑すぎて覚えきれなかったり……と。

乳児を連れて巡るには非常に困難だった。


「あ、そろそろ授乳しなきゃ……」


 砂南駅をどうにかこうにかクリアして、それから2つ3つクリアしたところで、娘の腹減りゲージが減っていることに気が付いた。


 いつもは泣かれてから気づくことも多いので、泣く前に気づけるこのゲージは正直ありがたい。


「ええと、この辺でベビールームのあるとこは……」


 なんて呟きながら、スマホでベビールームのある施設を検索し始める。


 駅ビルや百貨店などにはベビールームが設置されている店もある。

 そこでオムツ替えや授乳ができるので非常にありがたい。

 ただ、ミルク用のお湯まではあちこちの施設にあるのだが、離乳食を温める電子レンジのある施設は非常に少ない。


「離乳食のこと考えたら、ダンジョン攻略はお昼食べさせてきてからの方がいいかも」


「離乳食あっためるだけならアイテム使えばできるだろ? ほらよっ」


 言って、モグリンはモバイルバッテリーで離乳食をほかほかに温められる手の平サイズのウォーマーを手渡した。


「え? 何これめちゃくちゃ便利じゃん!」


 先日、お出かけした時は、保冷バッグにタオルとカイロと離乳食のパックを入れて、ほんのりあたたまる程度にして持って行ったっけ。

 こんな便利なものがあるなら、もっと早くに知りたかったよ。


 そんなこんなでオムツ替えと授乳を済ませて、いくつかの駅をめぐり、そろそろ家に帰ろうかという時――。

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