第6話 交通費は経費です
「そのミッション、交通費出る?」
それは、家計的に非常に重要な質問だった。
「けっ、世界の危機だっつーのにそういう現実的なことを……これだから年増は」
年増。
妙齢のご婦人にとって地雷以外の何物でもない言葉を吐かれ、つい条件反射でモグリンの胸倉(?)をぐっと掴んでしまう。
「世界の危機だろうが何だろうが、かかる経費は請求するのが賢い主婦なんですー」
胸倉を掴む手とは逆の手の拳をぐっと握り込む。
ああ、こんな姿、娘には見せたくないのになー。
と、思ったら、ミルクを飲んで満腹になったからか、ベビーベッドですやすやと気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
「成功報酬を払えとまでは言わない。けど、必要経費は出せ」
とはいえ、言うべきことは言わなくてはいけない。
「わーったよ。ほれ」
言って、モグリンが虚空から一枚のICカードを取り出し、ぽんっと放り投げた。
「っと……なにこれICカード?」
胸倉を掴んでいた手をパッと放して、ICカードをキャッチした。
見た目はごくごく普通の交通系ICカード。
「ただのICカードじゃねぇ、モバイルなんちゃら的なオートチャージ付きだ。クラッシュしたゲートの分、入金してやんよ」
(ん……? 入金?)
ICカードも不思議だが、それ以上に、別次元人のモグリンが円を持っている方が謎。
「え……? モグリンこっちのお金はどうやって……?」
「そのガラガラを使ってゲートをクラッシュすると同時に、わずかに次元の穴をあけて、中にひしめいている電子生命体を吸引&封印からの圧縮」
言いながら、目からビーム的な何かを出して、白い壁にイメージ映像を投影していく。
「しかるのち、ゲート部分をがっつり封印するんだが……電子生命体って圧縮すれば資源として使えるんだよ」
なんか、リサイクルの仕組みを説明するような簡易的なイラストが映し出された。
パワポで作ったプレゼン資料みたいだな……。
「だから、役所に持ってきゃ金になる。その金で貴金属買って、こっちの世界で売って、その金をそのカードに入金してやるっつー流れだ」
その姿(なり)でどうやって売りに行くのかとつっこもうと思ったら、パワポの質屋のイラストに『現地売却協力店舗』とか書かれてる。
一応、地球ってモグリンの管轄区域みたいだし、私みたいに現地に協力者がいるのかもしれない。
「つまり、金が欲しけりゃ、敵を倒せと?」
「そういうこと。ゲームみたいで面白いだろ」
言って、ケタケタ笑う。
いやいや、世界の危機ですよ。
絶対面白がってるだろ、お前……。
「せっかくだし、ゲーム風インターフェイスも見せてやんよ。ほいっと」
またも虚空から謎の眼鏡を取り出し、私の顔にかけた。
すると、RPGでおなじみの画面が目の前に展開される。
「私のHPに娘のHPとMP、アイテムや防御なんかはいいとして……」
そう、そこらへんまではごく普通のコマンド選択だった。
問題はその隣。
「コマンドにおむつ替えやら授乳やらが含まれてるのがシュールなんですが?」
いわゆるPRG的な画面でステータスを確認できるのはいいとして。
娘がおしっこしたのがアイコンの色でわかったり、腹減りゲージやらご機嫌ゲージやらで、お腹の空き具合から、かまって欲しい具合まで一目でわかるようになっていた。
「あ? 必要だろ?」
さも、当然のように言う。
もしかしてだけど、子育て経験でもあんのかコイツ。
と、思ったけど、あんまり想像したくない。
「そりゃそうだけど、数値化されるとなんか複雑」
でもこれ、子育てアイテムとしてはめっちゃ便利だな。
オムツ替えをして、ミルクを飲ませて、眠っているので、状態的にはオールグリーン。
「んじゃ、とっとと家事を終わらせて、世界を救いに行こうぜ!」
こうして、私と娘のRPGじみた冒険が幕を開けた。
のだが――
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