第5話 きな臭い話
「そもそも、電子の海はこの件に関与してねぇ」
珍しく神妙な顔で言う。
電子の海というのは、電子生命体が住んでいる世界らしい。
電子生命体が襲ってくるのであれば、それらが住んでいる『電子の海』がこの世界を侵略しようとしていると考えるのが普通だろう。
それが関与していないとなると、暴走した一部がたまたまこっちに来ちゃったってこと……?
さっきモグリンが話していた世界でも、バグってうっかり迷い込んじゃったみたいな口ぶりだったし。
「電子生命体ってのはもともと温厚かつやる気のねぇ種族だし、計画的に他世界侵略するタイプじゃねぇんだよ」
再び、ホワイトボードに電子の海や電子生命体の説明文を書き込みながら言う。
「それでもたまーにバグって暴走する奴らがいるんだが――」
水性ペンを置き、窓の外に目を向ける。
「今回もそれじゃないの?」
沸かしたお湯を哺乳瓶に入れながら問いかけた。
「いや、ここ数年、バグって他世界に迷い込んだ個体はねぇ」
「単なるバグじゃないってこと……?」
スプーンで計量した粉ミルクを哺乳瓶に入れながら聞き返す。
「ああ、明らかに人為的に仕掛けられている」
「なるほど、確かにきな臭い」
そして、オムツも匂っている。
「だろ? だから真の敵は奴らじゃねぇ」
言って、意味ありげに窓の外を見上げる。
「バグった電子生命体を入手した何者かが、この世界を破壊する目的で、電子生命体を爆弾代わりに使おうとしてるって考えるのが妥当だ」
「ふぅん。だから、ゲートを破壊するだけじゃなくて、黒幕も倒さないとダメなのか」
モグリンがブラインドに指を突っ込み、隙間から外を眺めている隙に、手早く、オムツを替えてゆく。
『オムツが匂わない袋』に使用済みのオムツを入れて、きつく縛った上に、オムツ用のゴミ箱へIN。これでかなり匂いは軽減される。
「そういうこと。にしても、侵略目的なら、バグった電子生命体なんて制御不能な代物、使うはずないんだよ。侵略したあと、排除するがめっちゃ大変だからな」
オムツ替えが終わったことを察したのか、モグリンがくるりとこちらを向いた。
「じゃあ、侵略じゃなくて人類を滅ぼすためにやってるってこと?」
流水にあててぬるくしたミルクを抱っこしながら娘にあげつつ、問いかけた。
「そうなるんだが……スタンプラリーのQRコードにわざわざゲートコードを仕込むとか、関係者でもない限り不可能じゃね?」
モグリンが釈然としない顔で言う。
「帝都地電の関係者の中に別世界のスパイでも潜りこんでるんじゃないの?」
「オレの知る限り、多次元侵略できる種族の中に人類と近しい種はいねぇ」
まぁ、獣人とか職場にいたら一発でバレるよね。うん、潜入には向かないな。
「考えられる可能性としては……」
言って、ふいに黙り込む。
「ん? 何、なんかヤバイこと?」
「いや、電気が使えなくなったとして、人類は困るけど、地球の環境的にはむしろよくなったりするんじゃねーかなーと」
むしろ、その方がよくね? とばかりにコクコク頷いている。
「そーかもしれないけど、勘弁して」
「ま、オレ的にはどっちでもいいけどな。上からはゲートクラッシュして電子生命体を回収してこいとしか言われてねーし。そこだけクリアできりゃオッケーだ」
「いやいや、救おうよ、人類。電化製品使えない人生なんて嫌だ」
今更、江戸時代みたいな生活に戻るなんて考えられない。
「なら、鍵が開く前に全ゲートをぶっ壊すこった」
「それしかないか……」
話を聞く限り、決してできないことじゃない。
けど、そのためには確認しておかなきゃいけないことがある。
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