第4話 電子生命体

 私が魔法少女をしていた時、ゲートは『地獄の門かな?』ってぐらい大きくておどろおどろしかった。


「今回のはサイバーだからなー」


 言って、タバコの煙を吐き出すようなしぐさをする。(無煙)


「コンピューターウイルスみたいな?」


 ネットを介して感染すると、パソコンが動かなくなったりと、なかなかやっかいなものもあるらしい、ということはなんとなく知っている。


「ああ。けど、もっとやっかいだぜぇ」


 ニヤっと笑い、再びホワイトボードに何やら描いていく。


① ゲートが開く

② その状態で誰かがスマホでQRを読み込む。

③ 電子生命体がスマホに入り込む。

④ ネットを介して世界中に拡散。

⑤ 電子生命体が入り込んだ端末を充電する。

⑥ 充電器からコンセント、電線へ電子生命体が入り込む。

⑦ 電気を食いながら実体化。

⑧ 世界中で大停電。


「と、まぁこんな感じだ。ちなみに感染した電化製品ものきなみぶっ壊れるゾ」


「うわぁ……」


 もっとこう、モンスターとかゾンビみたいのが街にあふれるって想像してたから、それよりは地味だけど。


 今の時代、電化製品使えなかったら地獄だわ。


「電子生命体そのものにゃ悪気はないし、普段は電子の海ってトコで平和に暮らしてるんだが、時折バグって別世界に迷いこんじまうんだよなー」


 まるで他人事のように軽い口調で言う。


「バグると、無限増殖するわ、電気食いまくるわでくっそ迷惑なんだコレが。ま、電子の海のがん細胞みてぇなもんだ」


 確かにそんなものがやってきたら脅威だけど……。


「10年前もマジカルな世界にバグった奴らが出現して、そりゃもう大変だったぜ」


 いきなり遠い目をして語り出す。

 漫画だったら回想シーンでも入りそうなノリである。

 どうせろくでもない思い出話なんだろうけど、一応聞いておいてやるか。


「ふぅん。でも、なんとかしたんでしょ?」


「まぁな。そん時はそこの世界の王女を魔法少女にして、無事封印。ただ――」


 あ、なんか嫌な予感。


「そこの王女に惚れられちまってよー」


 言いながら、やれやれとばかりに肩をすくめる。

 その背後には、高貴で儚げなロングヘアの金髪美少女の幻影が見えた気がした。


「事後処理とかもあるんで、しばらく滞在してたんだが――」


 あ、この言い方。

 絶対ろくでもない奴だ。


「面倒になったんで、『旅に出ます。探さないでください』つって逃げてきた」


 あっはっは、とさわやかに微笑みながら言う。


「うわっ、最低っ」


 そこの王女様もなんでこんな奴、好きになったんだ?

 見た目がプリチーなだけの中身最低野郎なのに……。


「しょーがねーだろー。こちとら他にも仕事があるんだ」


 言って、いきなりやさぐれる。


「引退もしてねぇのに、ひとつの世界に留まれやしねーんだよ」


 だからって、別れも告げずに逃亡するのはどうかと思う。


「ちなみに、逃げ出した時の王女様の年齢は?」


「14歳」


「なるほど、ストライクゾーンから外れたわけか」


「ハッハッハ」


 笑ってごまかしやがった。


「まぁ、そのへんのことは深く知りたくないんで、スルーするけど。そのゲートって1回壊したらそれでOKなの? 復活したりしない?」


 恐る恐る問いかけると。


「ああ、大丈夫だ。その辺は向こうで調整してきた」


 自信満々な答えが返ってきた。


「1回ぶっ壊せば2度と再生できねぇよ」


 そこまでハッキリ断言するなら大丈夫だろう。


「けど、今回の件、なぁんかおかしいんだよなー」


 しかし、一転、難しい顔で不穏なことを言い出した。


「というと?」

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