第3話 魔法のガラガラステッキ

 私が魔法少女なんてものをやっていた時、敵が出現するゲートはひとつだった。

それでも、めちゃくちゃ苦労したのに、140って……。


「他に対処できる子はいないの?」


 娘を抱っこしてあやしつつ問いかけた。


「いたらそっちに行ってるっつーの!」


 ぷんぷんと頬を膨らませながら言うモグリン。


「魔法少女は9歳から11歳がモアベター!」


 わざわざホワイトボードに大文字で立体的に書きだし、バンっと叩く。

 いや、そんなこと声高に主張されても……。


「0歳は可愛いけど……少女とは言えねぇよ」


 きょとんとしている娘の顔を覗き込み、はぁ、とため息を漏らす。


 まだ乳児だし、2,3年後だってまだ幼児。

少女と言って差し支えない年齢になるまで、まだまだ時間はかかるだろう。


「まぁ、そうね……」


 全力で逃げ出したいところだが、仮に全てのゲートが開いて敵が世界中に出現したら、安全地帯なんてどこにもない。


「協力するしかないってのはわかったけど、子連れで遠出はできないよ」


 いつ泣き出すかわからないし、電車やバスにはあんまり乗りたくない。


「ってか、そもそも言葉も話せないような乳児にどうやってゲートを破壊させるつもり?」


「ああ、それなら」


 ポンっという音がして、空中からキラキラと輝く小さなガラガラが出現した。


「こいつを娘ちゃんに握らせて」


 娘の手を開いて、キラキラのガラガラを握らせる。


「あだー」


 気に入ったのか、娘は上機嫌でガラガラを振っている。


「ガラガラのどっか一部でもゲートに触れればいい」


 ホワイトボードのゲートの絵に、ガラガラを当てる絵を加えるモグリン。


「それでゲートはクラッシュできる」


 言いながら、キュッキュとゲートに大きな×をつけていく。


「え? それだけ?」


 思った以上に簡単だった。


「それならできそうだけど……」


 問題はその数だ。


「140って……まさか世界中に散らばっているんじゃないでしょうね?」


 0歳児を連れての飛行機移動。

 それすなわち地獄!


 例え長時間眠っていようと狭い座席で抱っこし続けなければならず、万が一にもぐずりはじめた日には逃げ場ゼロ。


 泣かせてんじゃねぇ! と言わんばかりの周囲の視線が痛いのです。


 いざとなったらデッキに逃げられる分、新幹線の方がまだマシってもんですよ。


「それなら問題ない。全部、帝都地電の範囲内だ」


 帝都地下電鉄営団。略して帝都地電。もしくは地電。

 帝都内を走る地下鉄9路線を運営している。帝都の大交通網だ。


 とはいえ、走っているのは都心部のみ。

地電の範囲内ということであれば、おおよそ半径15kmくらいに収まる。


 ただ、娘を連れて行くならベビーカーは必須。

 となると、電車が空いているオフタイムしか動けない。


「それはありがたいけど、なんで地下鉄?」


「つーか、ぶっちゃけそのゲートってのが、帝都地電でやってるスタンプラリーのポスターに描かれているQRコードに仕込まれてんだわ」


 言いながら、ホワイトボードにそのポスターの映像を投影する。


 でかでかと全駅スタンプラリーと書かれたそのポスターの真ん中にその駅に対応しているQRコードが描かれていた。


 スタンプラリーというと、はんこが置いてあって、それを紙に押していく。

 というイメージだけど、最近はデジタルのものも増えているらしい。


 まず、特設のサイトにアクセスする。

 ユーザー登録をする。

 各駅に設置されたポスターに書かれたQRコードを読み取る。

 サイトのマイページ上に読み取ったスタンプの絵柄が保存される。

 ざっとこんな手順らしい。


 と、まぁ、それはともかく――


「QRコード……? え? ちっさ」


 思わず本音が零れ落ちる。

 ゲートって言うから、てっきりドアくらいのサイズかと思ったんだよね。

 にしても、何故にQRコード……?

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