第2話 多次元ゲート
私がモグリンに半ば騙されるようにして魔法少女になったのは9歳の頃。
当時は使命感に燃えていたとはいえ、身長3mはあるヒグマか? ってぐらいごっつい敵と戦うのは正直怖かった。
死にかけたのだって、1度や2度じゃない。
ましてや娘はまだ生後8ヶ月の乳児。
「保護者として同意できかねます」
にっこり微笑みそう告げて。
「すぐさまお引き取りやがれ、このトラブル小動物」
モグリンの頭を鷲掴みにするなり、バッドをフルスイングして星の彼方にぶっ飛ばしてやった。
今はもう魔法少女だった頃の力はないけれど、このくらいはできるのだ。
よし、星になったな。ふぅ、やれやれ。
「まぁ、そう言うなって」
成層圏まで達したはずのモグリンは、しかし、0.5秒で帰還した。
それどころか、どこから取り出したのかお茶の入った湯のみ片手にリビングでくつろいでいる。
「侵攻はまだ始まっていない」
ふぅ、と一息ついたかと思うと、お茶の入った湯のみをテーブルに置き、低めの声で言い放つ。
「今なら事が起きる前に対処できる。そのためにオレが来た」
なんて妙なキメ顔で言う。
うーん。シリアス展開。
「戦わずにどうにかできるってこと?」
雰囲気に呑まれ、思わず聞き返してしまった。
「ああ、ゲートはまだ開いていないからな」
ゲート、それはこの世界と別の世界を繋ぐ、なんだかよくわからない不思議な穴だ。
敵はそこからやってくる……らしい。
3次元のこの現実にあって、2次元の物語が無数に存在するように。
5次元空間……モグリン曰く神の領域には無数の3次元世界が散らばっているという。
それらは普段交わることはないのだが、たまーに知的レベルのとんでもなく高い世界の生き物が他の3次元世界に干渉しようとするらしい。
モグリンは5次元世界の監視員で、違法な多次元干渉を取り締まっているのだとか。
その際、神器を通じて5次元世界の力をこの世界で使えるようにするんだけど、神器を扱うには相性とか適正があるので、誰でもいいというわけではない。
神様の言葉をみんなに伝える巫女さんを想像してもらうとわかりやすいとは思うけど、何故か適正のある人間って少女なんだよね。
「多次元ゲートはこっちの世界に仕掛けられちゃいるが、まだ開いちゃいない。どうも時限式の鍵みてぇなのがついてるっぽいんだよな」
どこから取り出したのか、ホワイトボードに図を描きながら説明しはじめた。
「猶予はせいぜい数週間ってとこか。それまでに、ゲートを全部ぶっ壊して、ゲートを違法に設置している黒幕をぶっつぶさねぇと」
ホワイトボードに水性ペンで書きこむ時のキュッキュという音が部屋に鳴り響く。
どうでもいいけど、けっこう絵上手いなコイツ。
「な、簡単だろ?」
絵と文字を書き込み終えると、くるりと振り向き、満面の笑みで言う。
まぁ、敵が出てくる前にさくっと終わらせられるなら、危険は少ないのかもしれないけれど……。
「ゲートってひとつじゃないの?」
嫌な予感が伝播したのか、娘がぐずり出したので、あわててあやし始める私。
ええと、おしゃぶりは……ああ、ここか。
ほ~ら、大好きなおしゃぶりだよ~。
おしゃぶり大好きなんで、咥えていると静かにしてくれるけど。
おしゃぶりが口から離れると怒って泣くのはどうにかならんかなー。
片手塞がってるとつらいんだよなー。
自分でおしゃぶり持って咥えてくれたらいいのに……。
「ああ、ざっと140ってとこか」
必死に娘をあやす私を面白そうに見下ろしながら、モグリンがこともなげに言う。
「は?」
あまりの数に思わず固まり、おしゃぶりを抑えていた手が離れてしまう。
その瞬間、娘の口からおしゃぶりがぽろりと落ちて、娘号泣。
慌てて、おしゃぶりを娘の口に咥えさせたけど。
140て……。
「140ものゲートが一斉に開いて、この世界にはない異様な生命体が一斉になだれ込んでくる。想像するだに地獄だろ?」
言って、何がおかしいのかケタケタと笑い転げる。
ホント、クソだな、この不可思議生物。
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