多次元ゲート クラッシュベイビー
@moquar
第1話 魔法少女は0歳児!?
それは突然、なんの前触れもなく目の前に現れた。
「よぉ、久しぶり~」
ハムスターに似た、愛らしい3頭身の不可思議生物が非常に軽いノリで、ふよふよと空中浮遊しながら話しかけてくる。
(ああ、全力で
何しろこちらは育休中の兼業主婦。
背中には0歳の娘を背負い、手には取り込み中の洗濯物(パパのトランクス)が握られている。
サイエンスフィクションや異次元ファンタジー、ましてや魔法少女などに関わっている余裕はない。
それなのに――
「なんだよつれねぇなぁ。20年前は一緒に地球を救った仲じゃねぇか。なぁ、『魔法少女センチメンタルらぶりん』」
意味もなくほっぺたをつんつんと突いてくる。
(その名で呼ぶな!)
怒りのあまり、思わず物干し竿を叩き割りたい衝動に駆られたが、買い直すのも面倒なんでぐっと堪えた。
ていうか、ほっぺたぷくぷくのハムスターみたいな見た目のクセに、相変わらず口悪いなこいつ……。
「12歳以上のBBAには興味ないんじゃなかったっけ? ねぇ、モグリン」
こめかみに怒りマークを浮かべつつ、溢れんばかりの怒気を抑えてそう告げた。
モグリン……それが、目の前に浮かんでいる不可思議生物の名前だ。
顔はほっぺがぷくっとしたハムスターっぽいが、手足はむしろ犬か猫っぽく、ぷにぷにとした肉球がついている。
微妙に失敗したゆるキャラのような見た目の変な奴。
その正体は、こことは違う次元の知的生物で、あちこちの世界を監視している管理者なのだとか。
「おうっ! やっぱ、魔法少女は素直で可愛いJSに限る」
私の嫌味をしかしモグリンは清々しいまでの笑顔で肯定してみせる。
ああ、変わってない。
この不可思議生物は見た目だけじゃなく、中身も20年前そのままだ。
こんなのに関わっていては、命がいくつあっても足りはしない。
「……じゃ、私、夕飯の買い出しがあるから」
取り込み終えた洗濯物を片手に、さりげなく立ち去ろうとしたものの。
「まぁ、待てよ」
がしっと肩を掴まれ、肉球からぷにゅっと気の抜ける音がする。
「オレが顕現した意味わかってないわけじゃねぇだろ?」
言って、モグリンがニヤリと笑う。
「地球の危機……?」
ため息交じりにそう問いかけると、
「イエス!」
満面の笑みで言いながら、親指をぐっと立てていた。
以前も世界の危機を救うためという名目で私の前に現れ、現地の少女の協力が必要不可欠だと説得された結果、魔法少女にさせられたのだ。
だから、コイツが目の前に現れた時点で気づいてはいた。
またやっかいごとが起きたのだろう、と。
だが、しかし――
「もう少女って年じゃないんで、他あたってください」
冷たく言い放ち、ベランダのガラス戸をがらりと開けて、リビングに入った。
(
モグリンが中へ入る直前にぴしゃりとガラス戸を閉め、鍵も閉めたのだが――
「ああ、年増にゃ無理だ。だから――」
ガラス戸をものともせず、もにゅっとすり抜けて部屋に入って来た。
「用があるのは、お前が背負ってる娘の方」
言いながら、モグリンがほっぺをつんつんとつついたのは、まだまともに言葉も話せない生後8ヶ月の乳児だった。
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