第4話 第一章 4
4
もうひとつのふっくらした紙袋を開ける。
明るい色の毛糸の編み物をリビングの低いテーブルの上に広げた僕は、「ええっ、何だよ、これ」と驚きの声をあげた。
「凄いな」
父の口が、半開きになっているのが、その横顔から見て取れた。
袋の中から現れたセーターが、ド派手だったのだ。オレンジとブラウンを混ぜ合わせたような色をバックにレッド、イエロー、ブルーといった色達が思いきり自己主張するかに幾何学模様を描いていた。重なり合った部分もある。
男物、サイズはL。僕は、Mサイズしか着ない。最近、お腹が出て来た父が着るのはLサイズである。
「何考えてる?」
僕は父に聞いた。
「うん、品質管理だ」
父は予想した通りの言葉を言い、続けた。
「びっくりさせようとしたのか?幾ら何でもこれは着れんだろう」
「お母さん、セーター位、品質管理から脱却してもらいたかったんじゃない?」
僕は、言った。
品質管理、我が家では、この言葉が辞書とは違う使われ方をしていたのだった。
父は、大学で精密機械工学を学び、従業員三百人程の包装機械メーカーに勤めている。役職は品質管理部の部長である。品質管理という言葉が我が家で特別な意味を持つようになったのは、父が生産管理課長から品質管理部長に昇進したことが関係していた。
もう二年になる。
父の会社では、課長の後、次長を数年勤めてから部長になるのが一般的らしかったが、父は次長を経験することなく部署を変えて部長に昇進したのだった。
「抜擢人事ね。お給料も上がるし」
母は、そう言って喜んだ。
「地味だけど、安全と堅実を重視する君の性格を重視したんだよ、なんて社長に言われちゃってさ」
父は、ちょっと照れくさそうに社長に言われた抜擢人事の理由を僕と母の前で披露した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます