日常崩壊(3)
闘技場
カレンはショートソードを両手持ちの二刀流。
目の前、数メートル先のアメリアへ猛ダッシュした。
アメリアは右手にショートソード、左手に鞘を逆手で持っている。
距離は一瞬で縮められた。
クロスした両手持ちのショートソードをアメリアの首元へ持っていく。
だが、振り抜く瞬間、アメリアの下から上への縦一線のショートソード振り上げによって阻止され、バンザイするような形で仰反るカレン。
そこに一歩踏み込んだ、アメリアが逆手持ちの鞘をカレンの首元へ向けて左から右へ振り抜く。
目を見開くカレンは、反応し、すぐにしゃがみ込むと、アメリアの鞘の横振りは頭上を通り過ぎる。
カレンは低い体勢のまま回転し二刀流の二連撃を放つ。
アメリアも、その回転に合わせて体を回しながらバックステップして、カレンの回転斬撃を回避した。
また数メートルの距離ができる。
お互い、一呼吸すると剣を構え直した。
よく見るとアメリアのブレザー、上着を前で留めていたボタンが斬られていた。
それを見たカレンはニヤリと笑った。
「ふ、ふふふ……わ、わ、私の攻撃はどうかしら?」
「二刀流剣士と戦うのは初めてだけど、なかなか面白い動きね」
「つ、強がりが言えるのも今のうちよ……こ、こ、今度は服ごと切り裂いて
「そう。それは楽しみね」
そのアメリアの冷ややかな態度は、カレンの感情を逆撫でさせるものだった。
こめかみの血管は今にも、はち切れんばかりだが、深呼吸し、冷静な立ち振る舞いを意識した。
ここで焦って負けたら元も子もない。
そんなカレンには構わず、今度はアメリアが先に前に出た。
数メートルの距離、その動きにカレンも反応し前に出る。
それはほぼ同時に近かった。
先手必勝を狙うカレンは左手に持つショートソードで突きを放った。
それを待っていたかのように、アメリアも右手に持つショートソードで突きを放つ。
これも、ほぼ同時。
"切先"と"切先"が狂いなく触れ合う。
アメリアはコンマ数ミリ、剣を上へ傾けて、カレンの突きの軌道を"上へ"ズラした。
そして懐へ潜ると同時に、カレンの左手首を狙って右の肘打ちを当てる。
その衝撃で、カレンの持っていたショートソードが手から離れて飛んだ。
「な、なにぃ!!」
「このままボディをもらうわ」
そう言って、ショートソードの柄をカレンの腹に叩き込む。
ドン!と鈍い音と同時にカレンは後退りするが、痛みより気迫が勝り、踏み留まった。
「クソがぁぁぁぁ!!」
そして前に出たカレンは、アメリアの顔面狙いで右のショートソードで突きを放つ。
だが、アメリアの冷静さは異常だった。
体勢低くし、左手に逆手に持つ鞘を突き出すと、カレンのショートソードを鞘に収めてしまった。
そのまま手首を外側に捻ると、カレンはたまらずショートソードのグリップから手を離してしまう。
「はぁ?……なによそれ?」
カレンの困惑に構わずアメリアは、その勢いのまま、逆手持ちの鞘を上から下へ、カレンの右肩へ一気に振り下ろす。
「が、があああ……!!」
バキッと嫌な音がした。
完全にカレンの右肩の骨は砕けていた。
カレンは俯きながら肩を押さえ、その場に両膝をついた。
アメリアは鞘に収まる、カレンのショートソードのガード部分を親指で勢いよく弾き、剣だけ床に落とす。
そして自分の剣を鞘へ収めると、カレンに背を向けて立ち去ろうとした。
「ま、ま、待ちなさいよ!!まだ終わってないわよ!!」
「もう、あなたの実力は十分わかったわ。これ以上は無意味よ」
「クソが!!クソが!!クソがぁ!!」
「確かに、あなたは強い。でも肝心な部分が、弱い」
「ど、ど、ど、どういう意味よ!!」
「それは自分で考えなさい」
それだけ言って、アメリアは闘技場を後にする。
残されたカレンに近寄る者などいなかった。
ここからのカレンの生活は悲惨なものだった。
誰も話かける者もいなくなり、完全に変わり者扱い。
考えてもみれば、貴族の位も中途半端で、さらに下級貴族のアメリアより弱いとなれば、バディを組みたいと思う男性もいない。
カレンはバディを組めないまま卒業し、見習いになるも、結局、性格上の問題で火の国の南野営地に送られる。
ここで、仲間割れによって何人も聖騎士や魔法使いを殺めたとのことで、モーン・ドレイクに入れられることになる。
この頃までくると、カレン・ファーガストの精神状態は、もはや自分の名前を忘れるほど悪化していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます