日常崩壊(1)
数十年前
セントラル 聖騎士学校 寮
カレン・ファーガストは下着姿のままベッドの上に座り込み頭を抱え震えていた。
その震えは、本人にも、よくわからない感情からおきている。
怒りなのか、悲しみなのか、その答えを追求する余裕すらない。
あれから一週間、たった一週間で、カレンの後ろに
「どういう……ことなのよぉ……」
歯をギリギリと鳴らし、涙目のカレン。
その心は、すでに壊れ始めていた。
数日、寝れない日が続き、目の下のクマすらも気に留めなくなった頃には、魔法学校の男子生徒からのバディ申し込みすらも一切無くなっていた。
そして、遂にカレンは、その原因となった人物に辿り着くのだった。
__________
聖騎士学校校内
1人、カレンは周りには目もくれず、ただひたすら校内を歩いた。
他の女子生徒達は、顔を引き攣らせながらもカレンに頭を下げる。
そしてヒソヒソと小声で会話していた。
中庭が見える窓に差し掛かったカレンは、ふと外に目をやる。
すると、ベンチには1人の女子生徒が座り、本を読んでいた。
ウェーブの黒髪を後ろの高い位置で束ねたポニーテールの女子だ。
「あ、あ、あれは……あの時の……」
カレンは目を細めて、その女子生徒を見つめる。
すると、そこに長い黒髪の男子生徒がオロオロしながら話しかけていた。
頭を掻き、何度も頭を下げる、その様は貴族とは思えない立ち振る舞いだ。
「あ、あ、あの時の下級貴族の2人か……どうでもいいわ」
そう言いつつ、その場を離れようした時、カレンの後ろから歩いてきた女子生徒2人が声を上げた。
「あ!!中庭にいらっしゃるの、アメリアさんよ!」
「ほんとだ!ああ、なんて凛々しいのかしら……」
カレンは、その発言を聞いた瞬間、吐き気がした。
そして歯をギリギリと鳴らし、握り拳を作る。
後方にいた女子生徒2人は、そのただならぬ雰囲気に、その場をすぐに離れた。
「アメリア……だとぉ……あの女がぁ」
再び、ベンチに隣同士で座る2人を見たカレンは、アメリアという名と、その顔を完全に一致させた。
そして、小走りで中庭へと向かった。
中庭の木々が生い茂る場所、ベンチの裏側に来た。
カレンは、どうしても、この2人の会話が気になったのだ。
一体どんな関係なのだろうかと。
聞き耳を立てると、先に女性の声がした。
これはアメリアだろう。
その声は女性にしては低く、凛々しい声だが、どこか優しげだった。
「この本、面白かった。また面白い本があれば貸して欲しいわ」
「そ、それはよかった!」
男性の方は弱々しい声だった。
しどろもどろで自信を感じない……そんな声だ。
「なにかこう……戦闘の参考になる本とか無いかしら?」
「え?あー、戦闘かぁ……探してみるよ……」
「ありがとう」
カレンは、やはり噂通りの人間だと思った。
アメリアは異常なまでの戦闘狂。
今日まで無敗、間違いなく"聖騎士学校最強の騎士"だった。
「あー、あの、アメリアさんは……なぜ、そんなに戦闘にこだわるの?」
「え?」
「いや、答えるのが嫌ならいいんだ!僕は、あまり戦闘は好きじゃないからさ……」
「アルは優しいからね」
"アル"……それがこの男性の名前のようだった。
カレンはさらに聞き耳を立てる。
「私は親を、小さい頃に亡くしてる。でも、それは自然の摂理から反するような死だった」
「どういうこと?」
「べルートからガバーナルまでの道のり、さほど遠くはない、たった数日の距離、魔物に襲われて父と母は2人とも死んでしまった。その亡骸さえも残ってないわ」
「そ、そんな……」
「アル……私はね、この世から魔物を消し去りたい。一匹残らず……ただ、それだけのために戦ってるのよ」
「……アメリアさん」
「だから、私の前に立つ者は誰だろうと切り捨てる。邪魔をしようものなら容赦なく殺す」
そのアメリアの発言に、アルという男性だけでなく、カレンも息を呑んだ。
「軽蔑した?」
「いえ、僕も似てるかも……と思って」
「え?」
「僕も、この世界から争いを無くしたい。平和な世の中にしたい。魔人や魔獣がいなくなれば、少しは平和な世の中になるのは間違いないから、僕もアメリアさんに協力したいです」
「アル……」
「戦いは苦手だから、頭で勝負……ですかね!ちょっと最近、考えてることがあるんです」
「なに?」
「"竜血を無くす方法"です」
「そ、そんなこと……できるの?」
「仮説段階なんですけど、もしかしたら……」
カレンは驚愕していた。
この"アル"という人物は、ありえないことを考えている。
そして、聞き耳を立てるのに、もう一歩前に出たところで、カレンは物音を立ててしまった。
「そこにいるのは誰!!」
アメリアの怒声が中庭に響く。
カレンは一目散に走り、その場を後にした。
__________
数日後、カレンは不眠症に悩まされながらも、かろうじて聖騎士学校には通っていた。
最初は周りからも心配されたが、時が経つにつれてカレンに構う者は1人もいなくなっていた。
ある日、カレンはあることに気づく。
"バディがいない"
それは聖騎士学校の生徒にとっては死活問題だった。
このまま卒業になれば聖騎士宿舎で見習い、雑用をやらせられる。
だが、カレンに焦りは無かった。
もうバディなんてどうでもよくなっていたのだ。
今、思考していることは、"どうやったらアメリアに復讐できるか"……それだけだ。
「あ、ああ、あ、ああ、いいこと思いついたわ……ぬふ、ぬふ、ぐふふふふふ!!」
そう言いながら1人、寮のベッドの上で下着姿のまま高笑いしながら跳ねていた。
この瞬間、カレンは自分が壊れてしまったことに一切自覚がないまま、アメリアへの復讐を実行するのだった。
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