カレン・ファーガスト
数十年前
カレン・ファーガストは注目の的だった。
容姿端麗で、ファッションセンスもあり、さらには、その当時では珍しいとされるショートソード二刀流の剣士。
水の国において、さほど大きい家柄ではないが、剣の腕は、ノアール家に匹敵するのではないかとの噂がたつほど。
整えられたショートカットの青髪に、左腰に2本のショートソード。
聖騎士学校の制服の上から小さめの白銀のマントを羽織っていた。
その容姿と強さから、男子、女子生徒の間では人気があった。
いつも周りには人だかりがあり、バディの申し込みはひっきりなし。
だが、そんな栄光の学校生活は、たった1人の下級貴族に壊されることになる。
__________
聖騎士学校 校内
入学して三ヶ月ほど過ぎた頃、いつも通りカレンは中庭に呼び出されていた。
またバディの申し込み……
だが、嫌な気はしなかった。
相手がどんなにブサイクな男子生徒だったとしても、それを断るのも、また楽しい。
「カレンさん……よければ私とバディを……」
「申し訳ありません……お断り致します」
「そ、そうですか……」
相手の男は、さほどカッコいいというほどでもなかった。
家柄はカレンより上。
だが、カレンの前では、どんな男子生徒も
鼻を高くして校内を歩くカレン。
すれ違う女子生徒達は皆、頭を下げて挨拶した。
その両隣には仲がいい友達が並ぶ。
「カレンさん、そのカチューシャ可愛いですね!」
「ありがとう」
それは白い花柄の刺繍がされた上品なカチューシャで、カレンの少し幼い見た目を大人びさせていた。
「また、男子生徒の申し込みを断ったとお聞きしました。大丈夫なのですか?早く決めなければ……」
「いいのよ。バディ申し込みなんて次から次だから」
「そうですよね!カレンさんの強さなら、すぐにでもバディを組めます!」
ニコニコしながら2人の女子生徒は対応するが、それは明らかに"主人"と"従者"のような関係で、友達とは言い難かった。
「そういえば、あの噂、聞きました?」
「噂?なにそれ?」
「私たちと同じ、一年生で上級生に決闘を挑みまくってる女子生徒がいるとか……もうこの三ヶ月で数十試合していると聞きました」
「上級生に?そんなの勝てるわけないでしょう」
「そ、それが……一回も負けてないと聞いてます……」
「一回も!?」
聖騎士学校での、1年、2年の時間経過は大きい。
この間に学んだことは下級生とは比べ物にならないほどに差をつける。
確かに下級生でも実力があれば上級生と対等に渡り合うことができるかもしれないが、"何十試合もして一度も負けていない"というのはありえなかった。
「その女子生徒の名前は?」
「え?えーと……"アメリア・ハートル"でしたっけ?」
「聞いたことのない家柄ね……」
「火の国のド田舎の貴族みたいです……」
カレンは眉を顰める。
自分の家柄もそう大きいわけではないが、アメリアはどうなのか?
思考するに、そこまでの田舎なら明らかに下級貴族だった。
そんな会話をしていると、校内から中庭が見える窓へ差し掛かる。
カレンは、ふと外を見ると3人の男子生徒が、何か会話をしているようだった。
「あ、あれ。ローライン家とゼビオル家のご子息ですね!」
中庭のベンチの前、金髪の2人の男子生徒が、ベンチに座る黒の長髪の暗そうな男子生徒から本を借りている様子だ。
「ビショップ様とゾルディア様です!どちらも聖騎士学校では人気のある男子生徒ですよ!」
「ふーん」
そして、黒髪の男子生徒が立ち上がり、何冊かの本を抱えながら俯いて、少し歩くと、すぐに聖騎士学校の女子生徒とぶつかって本を落としてしまった。
「なにあれ……鈍臭い……」
「どこの貴族かしら?」
2人の友達はクスクスと笑いながら、歩き出した。
カレンは少しその風景を見ていた。
黒髪の男子生徒は本をかき集めているが、聖騎士の女子生徒も、しゃがんで本を集める。
その女子生徒はウェーブのかかった髪を後ろの高い位置で束ねたポニーテールの女性。
綺麗で、キリっとした顔立ちは学生とは思えないほど大人。
それは幼い容姿、華奢なカレンにとって、嫉妬の種だった。
「……どちらも下級貴族ね」
そう吐き捨てたカレンは、2人の友達を追うようにして、その場を離れた。
__________
そんな人気者のカレンの日常は、すぐに崩れることになる。
なぜか下校の際の取り巻きが減っていたのだ。
"増える"ならまだしも"減る"ことには耐えられないカレンは、すぐに動いた。
「あの3人はどうしたのかしら?」
カレンは、さりげなく他の取り巻きに聞いた。
すると1人の女子生徒が重い口を開く。
「そ、それが……」
「なによ!早く言いなさい!」
「アメリア・ハートルという女子生徒です……」
「アメリア……ハートル……?」
詳しい話を聞くに、聖騎士学校の女子生徒、下級生、上級生を含めて、アメリア・ハートルという女子生徒に"恋焦がれてる"……というのだ。
その波動は魔法学校へも広がり、アメリアにバディの申し込みが殺到しているとのことだった。
「ど、どおりで、最近バディの申し込みが少ないと思ったら……そういうこと……」
カレンのこめかみには血管が浮き出る。
その迫力に周りの取り巻き達は顔を引き攣らせていた。
そして、ついに"決定的な出来事"が、カレンを襲うのだった。
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