ブラック・キャット


土の国 グランド・マリア


監視塔



最上階、瘴気が漂い、それが辺りの空間を曲げる。

部屋の奥に座るゼドゥースは目が見えない。

瘴気を操って周囲の気配を察知するが、入り口の門の右側、壁付近の気配は異常だった。


ゼドゥースが瘴気で感じ取った、その気配は、


"人間ではない"


ということだった。


先ほどまでとは違う気配にゼドゥースは息を呑む。

それは自分と同類。

"魔人"の気配だった。


「まさか……こんなことがあるのか……いや、だが親が親なら可能性もあるか……」


「親?……確かに血縁上はそうかもしれないわね。でも、そうだとしても、私はそれを必ず断ち切る」


「"縁"とは、そう簡単に切れぬものだよ。それより君の"髪の色"が気になるね。さぞかし綺麗な銀色なのだろう……目が見えぬのが残念だ」


「さぁ?ご想像に任せするわ」


そう言って数秒、ほんの少しのの後、クロエは再び地面を蹴って猛ダッシュした。

そのスピードは最初とは比較にならないほど早い。


だが、ゼドゥースは瘴気の気配察知によって、クロエの筋肉の動きを瞬時に把握していた。


瘴気は細かくゼドゥースの正面に集まり、10本ほどの黒いショートソードを模った。

全てクロエを向いた瘴気の直剣は一気に射出される。


クロエはその全てを残像を作りつつ回避する。

そしてすぐさまゼドゥースの目の前まで辿り着いた。


ハイスピードの右回し蹴り。

その足は完全に座るゼドゥースの左こめかみを捉えていた。

だが今度は瘴気で作られた細い手がクロエの足を掴んでガードする。


「どんなに素早い攻撃をしようが、この部屋では無意味だ」


瘴気の手は足を潰すように力強く握りる。

その痛みにクロエは顔を歪ませた。

ゼドゥースは瘴気の手を勢いよく横に振り、クロエを飛ばし、数メートル先の入り口の門に叩きつけた。


その衝撃で少しだけ開いていた門は完全に閉る。


うつ伏せに倒れたクロエの気配を察知したゼドゥースは笑みを溢す。


「ここにいると退屈でね。壊れないなら、壊れるまでやるだけだ……。そう考えればいいだけの話さ」


ゼドゥースが作る瘴気の腕は、倒れるクロエを掴もうと、門の付近まで伸びる。


「何度やったら壊れるか……試してみようか」


「……"黒衣武装"」


「なに?」


倒れていたはずのクロエの気配が消えた。

その瞬間、ゼドゥースは妙な感覚に襲われる。

今まで感じたことがないものだった。


「なんだ……これは……」


目が見えないゼドゥースは自分の首が床に転がったことに気づくのに数秒要した。

思考し、攻撃されたのは理解できたが、気配察知では筋肉の動きも感じず、それどころか人が動いた時、部屋に響くはずの音すらも無かった。


そして気付かぬうちに、ゼドゥースは絶命した。


「"黒衣武装・黒猫ブラック・キャット"……どんなに素早い攻撃も無意味なら、それ以上に素早ければ問題ないでしょ?」


そう言ったクロエは入り口の門前にいた。

クロエの体は真っ黒でスレンダーな女性的なフォルムだった。

髪の色は銀髪に変化しており、顔には黒いバイザーを付けている。


クロエの攻撃は"行って戻る"だけの単純な攻撃だった。

その証拠にゼドゥースの体の後ろの壁には大きなヒビが入り、さらに入り口の門はへこんでいた。


入り口の門前に立つクロエは足がふらつく。

そして、漆黒のボディとバイザーに一瞬でヒビが入ると、すぐに砕けて黒い煙になって空気中に消える。

銀髪もすぐにブラウンに変わっていった。


クロエは肩で息をしていたが、あまりの息苦しさに両膝をついく。


「アルフィスは、これを何度も繰り返しているのね……化け物だわ……」


そう言うと、その苦しさに耐え切れずにクロエは前に倒れ込み、意識を失った。

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