移動都市グランド・マリア
土の国 グランド・マリア
町は常に地中を移動し続けている。
ごく普通の町と変わらないが、この町は魔法によって土で覆われ、地中深くへ隠されている。
町自体の大きさは、かなり広く、住民が増えるたびに、さらに拡張を続けていた。
ドーム場で閉ざされた空間だったが、空中には火の魔法によって燃える空があり、薄暗くとも光はある。
地上には2、3メートルの高さで、薄い瘴気が漂い、このグランド・マリアと呼ばれる町では一切、魔法が使えなかった。
だが唯一、このグランド・マリアにおいて瘴気が無い場所がある。
"それは町の中央にある巨大な闘技場だった"
ローマのコロッセオを彷彿とさせるこの建物は、円形に立ち、壁沿いの高い場所に観客席がある。
この闘技場でおこなわれる様々なイベントが、グランド・マリアという町においての娯楽であった。
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グランド・マリア 闘技場
中央に向かいあって立っているのは魔法使い同士。
1人は中年、長髪で薄い緑色の髪で、上半身裸、布のズボンを履いている。
大きめの杖を持っているが、その杖はもうボロボロだった。
逆にもう1人の魔法使いは異質だった。
白いワイシャツを肘のあたりまで捲り、黒いレザーパンツを履いた少年。
魔法具を持っていないのもそうだが、短髪で、髪の色が黒に少し銀が混ざっている。
この少年を見た観客は凄まじ声援を送る。
「アルフィス!お前に賭けてんだからな!!」
「そんな魔法使い、ボコボコにしちまえ!!」
「手加減いらねぇからな!やっちまえ!!」
観客は言いたい放題だった。
だが、アルフィスと呼ばれた少年は、それに構わず目の前の魔法使いを睨む。
その眼光の鋭さに、長髪の魔法使いは息を呑んだ。
お互い、距離にして10メートルほど離れているが、アルフィスという少年の圧力は痛いほど伝わった。
「ガキが……調子に乗りやがって……」
「その程度の"闘気"か……生きて帰れると思うな……」
長髪の魔法使いの発言は単なる強がりということはアルフィスにはわかっていた。
それは相手から放たれる"オーラ"で自然にわかった。
2人の間に1人の魔法使いが立った。
黒いローブに身を包み、フードを被っていて顔が見えない魔法使いだった。
魔法使いは指にコインを乗せてそれを弾こうとしていた。
歓声が最高潮に達した瞬間、黒いローブの魔法使いはコインを力強く弾き、宙へ上げた。
そのコインが地面に落ちたと同時に2人の魔法使いは詠唱を始めた。
「複合魔法……」
「風よ!!我が敵を……」
長髪の魔法使いが詠唱を完了する瞬間、アルフィスは目の前に現れた。
そして相手の顔面を目掛けて右ストレートを放つ。
ズドン!という轟音が闘技場内に響き渡ると同時に、アルフィスは拳を振り抜く。
長髪の魔法使いは数十メートル吹き飛び、地面を転がっていたが、そのまま壁に激突し、ようやく止まった。
「複合魔法解除……が、かはぁ……」
闘技場は大きい声援で沸き立つが、アルフィスにはもう聞こえていなかった。
通常の複合魔法ですら、アルフィスには凄まじい負担になっていたのだ。
胸を押さえるアルフィスを闘技場の奥からやってきたフードを被った魔法使い2人が無理やり担いで運ぶ。
アルフィスが運ばれた先は闘技場の地下、そこは瘴気が漂い、魔法は使えない区画だった。
地下には一つ一つ狭い部屋があり、鉄格子で仕切られる。
それは"牢獄"と言っても差し支えない作りだった。
その一つにアルフィスを無理やり投げ入れ、2人の魔法使いは去っていった。
牢獄の中には、1人の少年がいた。
少年はうつ伏せに倒れるアルフィスに駆け寄る。
「師匠!!こんなの……酷すぎる……」
「リオン……気にするな……」
リオンと呼ばれた少年は涙目になっていた。
この町に来てから数日経つが、アルフィスは毎日、少なくとも2回は戦っていた。
「僕のせいで……僕が戦えないから師匠は……」
「もう少しだ……あと何回か勝てば出られる」
「その前に師匠が死んでしまいます……」
「俺は大丈夫だ……」
アルフィスはそれだけ言って気を失った。
リオンはアルフィスが倒れる側に座り、泣き伏す。
そこに別の部屋から声がする。
声は男性でかなり低い声だった。
どこからともなく聞こえるその声の主の姿は見えない。
「凄いねぇ。もしかしたらこのまま勝ち抜くかもしれないな」
「……」
「勝ち抜けば出られるだけじゃない……ご褒美もあるからなぁ」
「ご褒美……?」
「"
「どうして……そんなものを……」
「だって、この戦いは"サード"の後釜を見つけるためにやってるみたいだからな」
リオンは首を傾げた。
確かクロエと会った時にアルフィスが言っていた人物だったような気がした。
「ナンバーをもらえるからさ。みんな命懸けなんだ。だが、恐らく誰も"サード"にはなれないよ」
「え?」
「だって、最後に戦う相手は"セカンド"だからさ。みんな殺されて終わりだ」
リオンはもうわかっていた。
セカンドというのはジレンマのことであると。
ジレンマという男は村を破壊した張本人であることを。
「セカンドが帰ってきたらみんな殺されて終わりだ……この牢獄にいる人間は誰一人生き残れないのさ……」
そう言うと声の主は大笑いし、それは地下に響き渡った。
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闘技場から観戦者が帰っていた。
各々、次の日になれば、また家事や仕事がある。
ほとんどの男性は町の北にある工場で働いていた。
女性は南の区画へ出向き、農作物や衣服を作る。
闘技場を出た男達は、興奮が冷めやらぬ中、帰宅する途中だった。
相変わらず町の中は薄い瘴気が漂っている。
「いやぁ、やっぱり、あの魔法使いは凄いな」
「あれって魔法か?物理じゃねぇか」
「いいじゃないか、今までにあんな強さの魔法使いはいなかったからな。毎日の楽しみが増えたよ」
そう言って3人は談笑しながら歩いていると、フードを被った者とすれ違った。
「ちょっと聞くけど、その魔法使いの名前は?」
3人は呼び止められる形で話しかけられた。
フードで顔は見えないが、その声は女性だった。
振り向く3人は顔を見合わせる。
そして、そのうちの一人が答えた。
「アルフィスって魔法使いだよ」
「……そう。ありがとう」
女性は3人にお礼を言うと歩き始めた。
その対応を見た男性3人とも首を傾げて、家路へ向かうのだった。
女性はフードを脱ぎ、ショートカットのブラウンの髪を少し手で整える。
「帰ってきて早々ね……なぜアルフィスがここにいるかわからないけど、彼がいるなら、まずは"ゼドゥース"を倒さなければ」
そう言ってクロエ・クロエラはフードを被り直すと、町の北にある工場地帯を目指した。
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