蒼天へ
土の国 マイアス
街のはずれにある宿。
三階の一番奥の部屋にアインはいた。
アインの手に握られているのは、シックス・ホルダーであるシリウスの杖。
「なぜ……これが、ここにあるんだ……」
アインは杖を布で巻き直し、テーブルの上に置いた。
そしてすぐに部屋を出て鍵をすると一階に戻った。
アインが一階に降りると、カウンターに店番をしている男性が眠そうな顔をしていた。
だがドタドタと急いで降りて来たアインの姿を見た瞬間、驚いた表情した。
「すいません!!俺の前に、あの部屋に泊まった方って……」
「ああ、白いローブの老人だよ。いやぁ凄いな、ここまで当るなんて」
「それは、どう言う事ですか?」
この宿に入って、マリアに言われた部屋を頼んだ時もそうだったが、明らかにこの店番の男性は何か知っていた。
「いや、過去にね、ある女性が泊まったんだよ、あの部屋に。そして宿を出る時に、あの部屋を誰にも貸さないでくれって言われたんだ」
「え?」
「私は、それは困るって言ったんだよ。その時は繁盛してたからね。そしたら、あんたらの話をされたんだ」
「どういうことですか?」
「あの部屋には、この先、老人と少年が別々に2人泊まるってさ。だから、その時まで誰にも貸さないで欲しいって。それでも無理だって言ったら、その時までの宿代だって物凄い量のお金を置いてったんだ」
「……」
「しかも、その時に受け取ったお金、今日まででピッタリなんだよ」
「それはいつの話しですか?」
「18年前だよ。きっかり今日で18年」
「な、なんだって……!?」
あまりにも壮大な出来事にアインは驚きを隠せなかった。
18年前にこの宿を借りた女性が、シリウスとアインがここに来ることを知っていた。
「いやぁ、だから驚いちゃってさ」
「その女性というのは、どういう方だったんでしょうか?」
「えーと……紫色のドレスを着た綺麗な女性だったよ」
その話を聞いた瞬間、アインは1人の女性を頭に思い浮かべた。
それは、さっき別れたマリアだ。
だがアインには理解できなかった。
なぜマリアは18年前に今日まで部屋を借り、さらにシリウスは大事な宝具を、その部屋に置いていったのか。
「あ、そうだ、忘れるところだった」
そう言って店番の男性は後ろの棚から、一つの箱を手に取り開けた。
箱の中には手紙のようなものが入っており、それはもうかなり古びていた。
「その女性からだ。あの部屋を借りた少年に渡してくれって。まさか、これを渡す時が来るなんてな」
「もしかして、これも18年前に?」
男性は少し笑みを浮かべて頷く。
この出来事が信じられない様子だが、本当に渡せる日が来たことが嬉しかったのだろう。
「正直、何度も捨てようと思ったんだ。でも、もしかしたら、って気持ちの方が強くてね。そしたら老人が来た」
「その方は何か言ってましたか?」
「君と同じさ、最上階の奥の部屋に泊まりたいって。お代は友人が払ってる……って言ってたね」
恐らく、この話を聞くにマリアとシリウスは知り合いで、この出来事を計画していたのではないかとアインは思った。
それでも18年前となるとアインはまだ生まれてもいない。
答えは、この手紙の中にあると確信し、それを開いた。
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蒼天 殿
この手紙を開封後、3日以内にムビルークの炭鉱へ向え。
"町"に入れるのは、このタイミングのみ。
愛する人を救え。
ロスト・フォースがあれば必ず間に合う。
運命を変えろ。
私がこれから呼び出す転生者へ。
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アインは頭はパンク寸前だった。
たが、この手紙を読んでわかったことが2つある。
それはマーシャに危険が迫っているということ、そしてマリアという女性がアインを転生させた者だということだ。
アインは中央ザッサムを出る際、トッドが言っていたことを思い出す。
マーシャは任務でムビルークへ向かっている。
「あの、ここからムビルークという町まで、どれくらいですか?」
「ムビルーク?ここからだと10日は掛かるぞ。早馬で行ったとしても半分くらいの時間は掛かる」
アインは言葉を失った。
この手紙には"必ず間に合う"と書いてあるが、明らかにムビルークまで3日以内に辿り着くのは不可能だった。
「そういえば、その手紙の内容で思い出したが、老人がここを出る時に言っていたことがあるな」
「え?」
「"ワシは間に合わなかったからなぁ"って」
アインは首を傾げた。
シリウスは何に間に合わなかったのか。
とにかくアインは考えるしかなかった。
わずか3日のうちにムビルークへ行く方法を。
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