まだ見ぬ未来


土の国 



ザッサムを出発してから数日、アインは馬車で移動中に、砂漠に倒れていた"マリア"という女性を助けた。


馬車はマリアの目的地であったマイアスという町を目指して移動する。


移動中、アインはマリアという女性の風貌が、ずっと気になっていた。

くびれが強調されるようなぴっちりした紫色のドレス、銀髪のショートカット、極め付けは広いつば付きの三角帽子ときている。


アインが見るに、それは紛れもなく"魔女"と呼んでも相違ない姿。

向かい合って座るマリアという女性にアインは無意識に言ってしまった。


「マリアさんって魔女みたいですね」


少し笑みを浮かべ、頭を掻きながら、そう発言した瞬間にハッとした。

魔女なんて、この世界ではありえないことだったからだ。

なにせ、この世界では女性は全く魔力を持たない。

魔女なんて存在しうるはずがなかった。


だがマリアという女性は少し驚いた表情をした後、すぐに笑みを溢して


「そうだよ。私は魔女なんだ」


アインは驚いた。

この世界にも"魔女"という単語が存在していたことに。


「この世界に魔法を使える女性はいないと思ってるだろう?」


「え?」


「確かに使える女性は少ない。ほとんどの女性はエンブレムで封印されてるからね」


「エンブレムで封印?じゃあ女性も魔力を?」


「いや魔力は無い。ただ魔力が無い者、つまり女性がほぼデメリットが無く使える魔法がこの世界には存在する。君は無属性魔法を知ってるかい?」


アインは首を傾げた。

そんな魔法は聞いたことが無かったからだ。


「"魔竜"が得意とした魔法でね。それを女性はほぼノーリスクで使えるのさ。そのかわり髪の毛が銀色になってしまうがね」


「初めて聞く話です……」


「そりゃそうさ。王が無属性魔法を封印して三百年は経ってるからね。知ってる人間の方が少ないよ」


「だけど、なぜ髪が銀色に?」


髪の毛が銀色になるのは魔法使いである男性でも起こりうることだ。

それは魔力覚醒の影響だと噂で聞いたことがあったが、なぜ魔力覚醒をおこなうと髪に銀が混ざり始めるのかは誰も知らなかった。


「うむ。それは恐らく聞かない方が身のためだアイン君。知らない方がいいこともある」


「は、はぁ……」


ただ髪の色が変わるだけの話しのはずだったが、マリアは口を閉ざした。

結局、魔女についての話はこれだけだった。

2人はあまり会話の無いまま数日かけてマイアスに辿り着いてしまった。



____________




マイアスに到着したアインとマリア、聖騎士のルナ。

アインはマリアを降ろしてすぐに出発しようとしたが、それをマリアに止められた。


「ここの宿で休んでいくといい。急いでも、いい事はないよ」


マリアは笑顔でそう言った。

このマイアスにはいくつか宿があったが、マリアに勧められた一番安い宿に泊まることになった。

ルナは聖騎士宿舎に挨拶しに行くと言ってマイアスの入り口で別れた。


宿の前に到着し、向かい合って立つアインとマリア。

アインは眉を顰めていた。

というのもアインに対して"急ぐな"と言ったのにも関わらず、マリアはもう移動するというのだ。


「世話になったね」


「いえ、こちらこそ貴重なお話が聞けてよかったです!」


「そうだ、宿に入ったら最上階の一番奥の部屋に泊まるといい。眺めが良くてね。運が良ければ綺麗な"虹"が見えるんだ」


そう言うとマリアは振り向き、宿を離れようとしていた。

困惑した表情を浮かべるアインだったが、思い出したように口を開く。


「マリアさん、またどこかで!」


マリアはその言葉を聞いて振り向くと、少し笑みを浮かべていた。


「私と君はもう二度と会う事はないよ」


「え……?」


「では私はこれで失礼する。幸運を」


「あ、あの!……マリアさんはこれからどちらに?」


「火の国へ」


それだけ言うとマリアはその場を立ち去ってしまった。

アインは首を傾げながらも宿へ入った。


宿に入るとカウンターがあり、初老の男性が店番をしていた。

アインは少し緊張しつつ、マリアが言った部屋に泊まりたいということを男性に伝えた。


「え……?まさか本当に来るなんて……あ、ああ、これが鍵だよ」


そう言って男性はアインに部屋の鍵を渡した。

どういうことか、男性はありえないものを見たかのような驚きようだった。

アインはその対応にさらに首を傾げた。



____________




最上階である三階、一番奥の部屋の前。

アインが鍵を開けて部屋に入る。

部屋はあまり広くはなく、窓も一つしかなかった。

しかも窓の外を見ると、隣には建物が隣接し、眺めがいいどころか日当たりも悪かった。


「眺めがいい?どういうことだ?」


アインは困惑していた。

部屋を間違えたのではないかと思っていると、あることに気づく。

中央にあるテーブルの上に何かが置かれていたのだ。


「なんだこれは?」


テーブルの上には布で包まれた細長い物が置かれていた。

アインはテーブルに近づいて頭を掻きながら、それを見る。


「前に泊まった人の忘れ物かな?」


アインは忘れ物なら店番の男性に届けようと、細長い何かを手に取った。

そして、それを少し傾けた瞬間、布がはだけた。


「そ、そんな……なんで……これがここに……」


布に包まれていたのは"杖"だった。

それも竜の尻尾のような形で、上の部分には拳大の大きさの水晶が埋め込まれてある。


アインは水晶の中を見た。

その水晶の中はレッド、ブルー、グリーン、ブラウンが重なり合った"虹色"に輝いている。


この杖は間違いなくシックス・ホルダーである大賢者シリウス・ラーカウの杖。

"魔竜尾の杖ロスト・フォース"だった。

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