ジバールの死闘(1)
土の国 ジバール
聖騎士団宿舎の地下にある牢屋にはダリウスだけがいた。
なにもやることがないので、ただ一日中寝てるだけだった。
たまに聖騎士が食事を運んで来るが、ダリウスは手を縛られて目隠しまでされているので、その聖騎士に食べさせてもらっていた。
その行為は過去、亡き母とのやり取りを思い出させ、全く悪い気分はしなかった。
そして今日も朝からワイアットとマーシャが訪れたが、ダリウスの口の堅さにため息をつきながら帰っていった。
それから数時間後、何者かが階段を降りるてくる気配を感じた。
ダリウスの体内時計だとまだ食事の時間は早い。
ダリウスは起き上がることなく聞き耳を立てていた。
「これはまた、まさかお前が捕まるとはな……」
その声の主は階段を降り切り、牢の前に立つ。
ダリウスはこの声を聞いて一瞬で誰かわかった。
「ジレンマか……」
ジレンマと呼ばれた男は体格がよく大男と言っても差し支えない。
そして銀の長髪でブラウンのロングコートを着ており、そのコートのポケットに両手を入れていた。
「すぐ戻ると言って戻らないから心配してたらこのザマか」
「アルは来てないの?」
そう言いながらベッドから起き上がるダリウス。
ジレンマと向かい合うようにベッドに座るが、相変わらず目隠しされているため見えていない。
「アルフォードは火の国に行った。用事があるとかでな。それより誰にやられた?アルフォードは二つ名クラスが関わってると言っていたが」
「雷のやつと大剣を持った聖騎士だ。多分どちらも二つ名持ちじゃないかな」
ジレンマはダリウスの言葉を聞いて少し考えていた。
「"迅雷"と"剛剣"か……?このバディは厄介だな。まぁ何にせよ早くここを出るぞ。"町"はすぐに移動する」
「だったら早く出してくれると嬉しいんだけど」
「いや、すまない。こんな絵面はもう2度と見れないと思うと名残惜しくてね」
ジレンマはそう言って笑みを溢すと、ダリウスはため息をついた。
そしてジレンマはコートポケットとジーンズのポケットに手を入れると赤い魔石と土色の魔石を取り出した。
ジレンマは土色の魔石を握る左手で勢いよく地面を殴ると鉄格子とダリウスが座るベッドの間に土壁を作った。
すぐさま赤い魔石を握る右手のストレートで鉄格子を殴る。
ズドン!という爆発と共に鉄格子が折れ曲がった。
同時に土壁が崩れて無くなった。
「また魔石を使ってるのか?敵だったやつの戦い方を真似るなんてどうかしてると思うけど」
「これ結構楽しいんだぜ」
そう言ってジレンマはニヤリと笑い、ダリウスの元へ寄ると、その拘束を解いた。
2人は階段を登り、宿舎の入り口へ向かう。
その際、ここに駐在していた聖騎士達が複数倒れていた。
ダリウスはそれを見て、この中に自分に食事を与えてくれてた女性がいたのかと思うと、少し胸が締め付けられた。
____________
聖騎士団宿舎から出た2人は何食わぬ顔で町を歩き出した。
外は風が強く吹き、目をまともに開けられないほど砂埃が宙を舞っていた。
そんな中、2人が向かうのはこの町の南西門。
並んで歩く銀髪の2人は目立ったが、この町の住人はそれどころではない。
それはジレンマもダリウスも見て取れてわかった。
「このまま町の外に出て"下"へ潜る。すぐにゲートを開け」
「了解」
歩きながら、そんなやり取りをしていたが、2人は同時に立ち止まった。
正面には何も無いが、ジレンマとダリウスは明らかに背後から殺気を感じていた。
「おいおい、お出かけか?坊ちゃん。外出は許してねぇぜ」
ジレンマがゆっくり振り向くと、そこには銀が少し混ざった緑色の髪のローブを着た魔法使いが立っていた。
その魔法使いは迅雷のワイアットだった。
ジレンマは会ったことはなくとも、髪の色を見てすぐにそう判断できた。
「俺が許したんだ。文句あるのか?」
そう言ってジレンマはワイアットを凄まじ眼光で睨む。
ワイアットはその眼光に息を呑むが、すぐに笑みを溢した。
「貴様……何者だ?今まで感じたことのない気配だ……」
「俺は今ジレンマと名乗ってる。お前は迅雷のワイアットだな……噂に聞いてる」
「そうか……俺も有名になったものだな」
2人の睨み合いは続いた。
そしてお互い数秒間、沈黙したがワイアットが口を開いた。
「お前らの目的はなんだ?なぜ難民をさらう」
「さらう?保護と言って欲しいね。お前もこの国の現状は見てわかるだろ?周りを見ろ、こんな状況がいつまでも続いたら国が亡ぶぞ」
「綺麗事を……裏があるとしか思えん」
「なんとでも言えばいい。俺達はこれで失礼させてもらう」
ジレンマがそう言うと、ワイアットに背を向け歩き出そうとし、ダリウスもそれに続く。
「行かせると思うか?……魔力覚醒」
ワイアットの周囲に雷撃が走る。
それを見た周りの住人達は驚き、そそくさとその場から離れていった。
「この俺とやる気なのか?」
「そうだ。貴様が何者かはわからんが、ケルベロスに深く関わってる人間をこのまま行かせるわけにはいかない」
「ケルベロスの名まで知ってるのか」
「"サード"は二つ名のメンバーで倒したからな」
ジレンマは驚いて再び振り向く。
そして大きく高笑いした。
ワイアットの言葉にジレンマは久しぶりに高揚していたのだ。
「そうか!貴様らがラムザを!そこまでの強者は珍しい!」
「おいおいジレンマ、時間が無いだろ。町が移動する」
ダリウスがジレンマを止めようとしていた。
だがジレンマはそんなダリウスを凄まじ眼光で睨んだ。
「貴様は黙ってろ」
「……」
ダリウスはジレンマのあまりの圧に少し後退りした。
こうなったジレンマはもう止めなれないということはダリウスは誰よりもわかっていた。
「失望させるなよ。"迅雷"」
「それはこっちのセリフだ」
ジレンマの銀色の髪が少し逆立つ。
一方、ワイアットの髪はほぼ全てが銀色に変わっていた。
両者は数秒睨み合うが、ジレンマがドン!と地面を力強く蹴ってワイアットへ向かう。
ワイアットはそのジレンマを見て中型の杖を前に構えた。
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