ジバールの死闘(2)
土の国 ジバール
時より強く吹く風は土埃を舞い上げる。
太陽はちょうど中央に位置し、その暑さは体力を奪う。
だがそんな暑さとは関係のない汗がワイアットのこめかみあたりから伝った。
それは目の前、数メートル先にいる"ジレンマ"と名乗った大男の圧によるものだとワイアット自身もわかっていた。
ジレンマはただの人間ではない。
明らかに風の国で戦ったラムザと並ぶほどの気配を漂わせている。
虎のような人様に巨大な体、白いワイシャツの上にブラウンのコート、下は黒いジーパン。
そして一番特徴的なのはその髪の色だった。
ジレンマの隣に立つダリウスという少年と同じ、全て銀色の長髪。
さらに臨戦体制を思わせるように少し逆立っているようにも見える。
ワイアットも魔力覚醒を発動させほぼ全て髪が銀髪だ。
この銀色が何を示しているのか考える暇も無く、ジレンマがワイアットへ向かうため地面を蹴った。
猛スピードで走るジレンマはワイアットとの距離を一気に詰める。
ワイアットは左手に持つ中型の杖を前に構えるとすぐさま魔法を発動させた。
「正面から来るか!飛電!!」
雷は歪にも真っ直ぐ走るジレンマに向かう。
だがジレンマはすぐさま左拳で地面を殴る。
すると土壁が一瞬にして出現し、その雷を防ぐ。
土壁は粉砕されるが雷はジレンマには届かない。
ジレンマは砕けた土壁の破片を避けるように横へステップし、さらにダッシュしてワイアットとの距離を縮めた。
「土の魔法使いか!?」
ワイアットはさらに飛電を放とうと杖を前に向けるが、ジレンマはもう目の前にいた。
ジレンマはワイアットの杖をスマートな左のショートアッパーで弾き仰け反らせる。
そしてそれを一瞬で引くと渾身の右スレートをワイアットのボディに叩き込んだ。
「うっ!がはぁ!!」
その衝撃は凄まじく、風圧が周囲に広がった。
ワイアットは数メートル後方に吹き飛ばされて転がるが、受け身を取り片膝をついた状態で耐えた。
あまりの激痛に胸のあたりを押さえている。
「まだ倒れるには早いぞ迅雷!!」
ワイアットがその言葉に反応し、ジレンマを見た。
すると数メートル先のジレンマは左の親指で赤い石のようなものを弾いて宙に上げる。
その行動を見たワイアットの思考は瞬時に動いた。
「飛び道具か!雷壁!!」
ワイアットは杖を持つ左手で地面を殴る。
同時にジレンマが右ストレートで赤い石を殴って飛ばしてきた。
石は高速でワイアットに向かうが、それが目の前あたりに届いた瞬間、地面からXを描き雷が突き上がる。
ジレンマが撃った赤い石を二つの雷が撃墜した。
その瞬間、そこで爆発が起こり周りは黒い煙で包まれた。
「なんなんだ……この戦い方は……アルフィスに似てる……」
ワイアットの困惑は当たり前だった。
まずこの世界にインファイトを挑もうとする魔法使いはいない。
いたとしてもアルフィスか水の国のリヴォルグぐらいで、普通の魔法使いはそんなことはしないからだ。
「流石は二つ名……最初のボディで倒れるかと思ったが」
それは声だけだったが、強い風が吹いたことで黒煙が晴れ、笑みをこぼすジレンマがゆっくり歩いて来くるのをワイアットは確認した。
その距離は未だ数メートル。
だがワイアットはこのジレンマなら一瞬で距離を詰めてくるだろうと思っていた。
「魔石を戦闘に使うやつなんて珍しいな……お前で2人目だよ」
「ほう。お前はあの男と面識があるのか?あの異世界人と」
「異世界人?そりゃ俺の考えてるやつと違うな」
「そうか……こんな戦い方をするやつが"ジョー"以外にいる……まさか……」
「"ジョー"?」
ワイアットは首を傾げた。
そんな名前は聞いたことはない。
やはりこの男が言ってるのはアルフィスのことではないとワイアットは思った。
「その異世界人の名前さ。若くてギラギラしたやつで、"魔石"と"体術"を使って戦っていた。こちらに呼び出された時、俺はそいつのことが気に入ったんだが」
「知らないやつだ」
「だろうな。俺はお前の知ってる人間が気になるね。水の国でも似たようなのと戦ったが……」
「……それはアルフィス・ハートルじゃないか?」
ワイアットがその名前を口にした瞬間、ジレンマは声には出さず驚いた表情をした。
そしてすぐに笑みをこぼすが、その笑顔は不気味だった。
「そいつは……魔石を飛ばして、炎を纏って体術で戦うのか?」
「あ、ああ。それがどうした?」
「あいつが!?……そうか、そういうことか……あいつがアルフィス・ハートル!間違い無い、俺は戦っていたんだ"炎の男"と……"予言の男"と!!」
ジレンマはそう言うと両拳を力強く握る。
気のせいかワイアットはジレンマから目に見えないオーラが放たれているように感じ、そのオーラは周囲を歪ませているようだった。
「予言の男?まさかそれは"王を超える者"か?あれは……おとぎ話だろ……」
「何も知らない者はそう思うだろう……」
ワイアットはジレンマの言葉に困惑する。
だがそれに構うことなくジレンマは羽織っていたロングコートを脱ぎ、その場に落とした。
「今日は気分がいい。少し本気を見せてやる」
ジレンマはそう言うとニヤリと笑う。
その数メートル後方にいたダリウスの顔は青ざめ後退りしていた。
ワイアットもジレンマの只ならぬオーラを感じて無意識に地面についた膝が震える。
「俺はこの手で"予言"を捻り潰す……王を超えるのはこの俺だ……"セカンド・ケルベロス"であるこの俺なんだ!!」
「セカンド!?お前がセカンドだと!!」
ワイアットは驚愕した。
目の前にいる大男は風の国に現れたラムザ・サードケルベロスと同等クラスの力を持つ魔人。
ケルベロスのトップである銀の獣の1人だった。
「宝具に選ばれるのはこの俺だ。"黒衣武装"……
魔法の詠唱のように口にしたその言葉によってジレンマの周囲には、歪で赤黒い雷撃がバチバチと走る。
そして徐々に右腕の色がドス黒く、それは右肩、右胸まで包み、最後は右肩から真っ黒な片翼が現れる。
その大きさは人1人を包み込むほど大きい。
ワイアットはその光景を見て息を呑むが、さらに衝撃的だったのは髪の色だった。
銀の長髪は逆立ち、赤黒いオーラを放っており右目も赤黒く発光している。
それはジレンマの"体"自体が宝具なのではないかと思わせるほどだった。
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