到着
土の国 中央ザッサム
アイン、シリウスは数日かけてようやく土の国の中央であるザッサムに到着した。
ザッサムも他の大きな町同様、巨大な壁が円を描くように立っている。
東西南北にはそれぞれ門があり、アインとシリウスは馬車は東門に到着していた。
アインは馬車から降り、シリウスに別れの挨拶をしていた。
「乗せて頂いてありがとうございました。短い間ですが、まさか大賢者シリウスと旅ができるなんて光栄でした」
アインは笑顔でそう言うと深く頭を下げた。
馬車の中のシリウスはアインの礼儀正しい姿を見て満面の笑みだった。
「いやいや、こちらこそ楽しい旅じゃったよ」
「ありがとうございます!」
「これからどうするのじゃ?観光に来たというわけではあるまい」
「ええ、ダイアス家へ招かれております。御令嬢のマーシャさんとバディを組んでおりまして」
「ほう。そうじゃったな……またこれも運命なのか……」
「え?」
シリウスの言葉に首を傾げるアイン。
アインはマーシャとバディを組んでいる話はしていなかったが、恐らくシリウスは対抗戦を見たのだろうと思った。
だが、それよりも"運命"という言葉に引っ掛かった。
「いやいや、こちらの話じゃよ。ではアイン君、またどこかで」
「はい!」
アインはシリウスが乗る馬車が門を通過していくのを見送ると、ザッサムに入るために並んでいる列の最後尾についた。
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中央ザッサム 土の塔前
夕刻、日は落ちかけていた。
いつも人通りもある土の塔の周囲には人があまりいなかった。
それもそのはずで、門の前には土の王カインが腕組みをして鋭い眼光で立っており、さらにその隣には水の王リーゼもいた。
明らかに異様な雰囲気に町の人間は何かを察してか、土の塔には近づいてこなかった。
「来ましたね」
「ああ」
そこに一つの馬車が到着した。
周囲には四人の聖騎士が馬に乗り、ゆっくり馬車と並走する。
馬車がカインとリーゼの前に到着するとドアが開き、老人が杖をついて降りてきた。
「これはこれは……王が二人も揃って出迎えて下さるとは」
「いえ、こちらこそ御足労おかけしましたね、シリウス・ラーカウ」
「久しぶりだな、シリウス」
二人の王は笑みを溢し、その表情を見たシリウスも笑顔になった。
シリウスが王と再会するのは数十年ぶりだった。
「長旅は老体には堪えるの……」
「申し訳ないですね……そういえば後継者の方は見つかりましたか?」
背伸びをしているシリウスにリーゼが笑みを浮かべながら聞いた。
「ああ。見つかったよ。つい最近な」
シリウスの言葉に真顔になるリーゼはカインと顔を見合わせた。
「それよりも、ダイアス家の令嬢はどうだったのだ?」
「え?……ええ、私が二つ名を与えました。このままダイアス家に宝具を持っていきます」
「そうか……その話じゃが、一日待ってもらえないかの?」
「何か問題でも?」
「いや、流石に今行くのは無粋と言うものじゃよ。とにかく明日この時間に持ってってくれ」
リーゼはカインと再び顔を見合わせたが、何か事情があることを察して、それに頷いた。
「わしはもう出るよ。流石に宝具が三つも同じ国にあるなぞ前代未聞じゃからな。何が起こるかわからん」
「苦労をかけますねシリウス」
「いいんじゃよ。これが最後の仕事となれば、わしなりに楽しむさ」
シリウスそう言うとニヤリと笑った。
そんなシリウスを見たリーゼは苦笑いを浮かべる。
そこにシリウスが護衛に連れてきていた聖騎士二人が、大きな箱を持ってきた。
逆に馬車に積んでいた荷物を聖騎士の一人がカインに手渡す。
シリウスは自分の前に置かれた大きい箱からは異様なオーラが漂っているように感じた。
「久しぶりじゃな……」
シリウスはそう言うと真剣な表情で箱の前に膝をつき、少し開けて中を見た。
その中には銀色のガントレットが二つ入っており、その二つは右手用と左手用だった。
「久しぶりに見たな……これからインスピレーションを得て"黒獅子のグローブ"を作ったんだったのう」
シリウスは笑みを浮かべながら、ゆっくり箱を閉じ、聖騎士達に合図する。
聖騎士達は箱を持ち上げ馬車に運んだ。
「ガントレット型の魔法具とは一体誰が考えたのでしょうね……」
「それに意味のわからないデメリットだ。人間に使えるはずあるまい」
王二人は険しい表情で馬車に運ばれていく大きな箱を目で追った。
同時に二人からはため息が漏れていた。
「確か……ブラッドオーラ発動中は使い手の生命力を吸い上げ続けるんじゃったか?」
「ええ。それを莫大な魔力に変換し続ける。さらにスペシャルスキルを全て発動できるようになる。間違いなく今ある宝具の中で最強です」
「だが普通の人間が使っていられるのは数分が限界だろう。"ケルベロス"が異常すぎた」
これが、この宝具が人間には使いこなせないとされる理由だった。
簡単に言えば"人が使うとすぐに死ぬ"というのが、この宝具のデメリットだった。
「まぁ、とにかくセントラルに持っていくよ。そのうち使い手も現れるじゃろうて」
「それは流石に……」
「いや……」
リーゼがシリウスの言葉に否定しようとしたが、間髪入れずに口を開いた。
「もしかしたら、もう近くに正統な使い手がいるかもしれんぞ」
シリウスはそう言うと満面の笑みで馬車に乗り込んだ。
窓から手を振るシリウスに王二人は頷いて応える。
そして馬車はセントラルに向かうために走り去っていった。
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