炎雷


風の国 闘技場



石造り、円形の壇上にはアルフィス、ナナリー、ワイアットがいた。

それに向かい合う形で銀髪で真っ黒な体のラムザが立つ。

その体はスマートで余分な筋肉など無い。


それを見守るアゲハ、レノ。

ノアは相変わらず気を失っていた。


「まさか……あれがサードの後釜か……」


「サード?」


「サードケルベロスは昔に僕が倒したんだ。とあるアーティファクトの使い手だった。だが、あのラムザという男の"姿"は初めて見る……」


レノは片目を閉じてラムザを見た。

"過去眼鏡"でラムザの過去を見ていたのだ。


「こいつ……過去が真っ黒で何も見えない……」


「どういうことですか?」


「人間の動きは見えるけど暗くてよく見えない……カゲヤマは完全に見えなかったが、こんな過去の見え方は初めてだ……」


レノは今まで経験したことのない状況に息を呑んだ。

王として君臨して二千年も経つが、そんなレノでさえもラムザという男は異質だった。


「僕が戦えればいいんだけど、さっきカゲヤマを故郷に戻したことで魔力の回復が追いついてない……あとは彼らに任せるしかないだろう」


「彼なら……アルフィスなら必ずラムザを倒します。なにせアルフィスは火の王に挑もうとしている魔法使いですから」


アゲハの言葉にレノは驚いた。

レノは兄である火の王ロゼと何度も戦ったことはあるが、一度も勝ったことはない。

それどころか一撃すら攻撃を当てたことは無かった。


「ロゼ兄さんに挑んだ人間はこの二千年の間に二人しかいない……なんて男だ……」


レノは世界最強の王に挑もうとする人間がまだいたことに高揚し、笑みを溢していた。




________________




アルフィスはラムザに向かっていた。

魔法陣は展開され、両手に火の魔石を握る。


アルフィスは正面で右拳と左拳をぶつけて握っていた火の魔石を砕くと、両手は炎に包まれた。


ナナリーがその後ろで剣のグリップを振るい、透明な糸のオーラを鞭のように扱う。

さらにその後方には魔力覚醒状態のワイアットが左手に持つ中型の杖を構えていた。


「この姿を見ても向かってくるとは……」


「そんなんでビビるかよ。今度はてめぇの心臓止めてやるぜ」


その言葉と同時にアルフィスとラムザはその場から姿を消した。

アルフィスの炎が直線を描く、そしてラムザの黒衣も黒い直線を描きそれが一瞬で激突した。


アルフィスの灼熱の右ストレートとラムザの黒煙を纏った右ストレートが衝突する。

熱波と黒煙がアルフィスとラムザの周りで巻き起こり、その衝撃で地面が四方八方に割れた。


アルフィスは自分に付与された魔法が解除されてしまったことはわかったが、それでも右ストレートを振り抜いた。


ラムザの右拳から右肩まで炎が燃え上がるが、黒衣のエンブレムによって、それを一瞬にして消してしまった。

だがラムザの右腕の骨は完全に粉砕されていた。


仰反るラムザはそれに耐え、一歩踏み込み、今度は左ストレートを放とうとしていた。

だが、その瞬間、透明の糸のようなオーラが左腕に巻きつく。

ナナリーは剣のグリップを思い切り上に振ると、ラムザは左腕は宙へ向く。


そこにワイアットが渾身の魔法を放った。


「飛電!!」


糸のようなオーラはエンブレムだった。

エンブレムとエンブレムは反発し、その部分のみアンチマジックが消える。


ワイアットが放った雷が一瞬でラムザの左腕に飛び、その腕が消し飛んだ。


「いい連携ですね。はじめに聖騎士から行きましょう」


ラムザはそう言い放つと、アルフィスの目の前から姿を消した。

そしてアルフィスの後ろにいたナナリーの目の前に現れ、右拳でボディブローを打った。

それはナナリーの腹に直撃し、そのあまりの衝撃にナナリーは血を吐いた。


「がはぁ……」


「ナナリー!複合魔法・下級魔法強化!!」


アルフィスは最後の魔法を唱えた。

そして左太もものバッグから火の魔石を取り出すと宙に上げ、右ストレートで打ち出す。

火の魔石はラムザの背中に当たるが、構わずラムザは怯むナナリーに対して右ストレートモーションを溜める。


ラムザの顔は見えなかったがニヤリと笑ったように見えた。

そしてナナリーへのトドメの一撃を打とうとした瞬間、ラムザは体に違和感を覚えた。


火の魔石で燃え上がった炎が消えていない。

それは全身エンブレムのラムザの体ではありえなかった。


「これは……まさか……」


ラムザが体を見るとナナリーの"リモータルナーヴ"が全身に巻きつき、エンブレムを掻き消していた。

ナナリーは不気味な笑みを浮かべ、ラムザを睨む。


「私の死神に殺されるがいいわ」


ラムザは絶句した。

自身をガードするよりも魔法使いを手助けをする。

生存することよりも目の前の敵を倒すことを優先するナナリーの行動がラムザには理解できなかった。


ナナリーは力を振り絞り、思い切り後方にバッグステップすると、空中からゴロゴロと轟音が響き、それが一気にラムザに落ちた。


竜王りゅうおう天雷てんらい!!」


おびただしい数の雷が、ラムザ目掛けて一点集中し落ちる。

その威力で地面が抉れ、砂埃が舞う。


「アルフィス!終わらせろ!!」


ワイアットの叫びに応じて、ラムザの周りで舞う砂埃は一瞬で晴れる。

アルフィスはラムザの目の前に瞬間移動していた。

右腰に溜める拳にラムザを燃やす"炎"とワイアットの"雷"が吸収される。


アルフィスの右拳のグローブは炎と雷を纏う。

地面は高温で黒焦げ、さらに周囲にバチバチと雷が走る。

アルフィスの髪の色は真っ赤になり、さらに銀色が少し混ざった色に変化した。

アルフィスはラムザを鋭い眼光で睨む。


「風穴空けてやる……テンペスト……炎雷弾ブレイズ・ボルト


アルフィスの打ち出した右ストレートはラムザの胸に直撃した。

ズドン!という轟音は闘技場に響き渡る。


「があああああ!!!!」


その拳に纏う炎はラムザの胸を燃やし、雷の衝撃は骨を砕く。

アルフィスの右拳は徐々にそれをおこない、ラムザの胸に穴が開いていった。


爆破ブラスト!!」


その言葉と同時にアルフィスの右拳は爆破を起こし、その衝撃によってラムザの胸には完全に穴が空く。

アルフィスがその拳を引き抜くと、ラムザはその場に仰向けに倒れた。


それを見届けると同時にアルフィスの後ろに立つナナリーも倒れそうになるが、ワイアットが駆けつけてそれを支えた。


ラムザの体から黒い煙が上がり、元の姿に戻る。

それを見ていたアルフィス達はその時、勝利を確信し安堵した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る