ラムザ


風の国 闘技場



アゲハは倒れるカゲヤマの亡がらを見つめ涙を流していた。


「先生を……元いた世界に戻してあげられないのでしょうか?」


突然のアゲハの言葉にレノは驚く。

だが、これがアゲハの優しさなのだと思うと、どうにかしたくなってしまう。

レノはカゲヤマの遺体に近づくと、その体に手を当てた。


「僕が戻そう。彼を元いた世界へ……」


そう言うとレノの足元に黒い魔法陣が展開する。

するとだんだんと光に包まれたカゲヤマの遺体は少しづつ薄くなり、最後には光り輝いた瞬間、その場から消えてしまった。


「これで、彼は帰ったよ……」


立ち上がりレノはよろめき、アゲハはそれを支えた。

無属性魔法の転生術に使う魔力は膨大で、王ですら具合が悪くなるほどだった。


「レノ様……ありがとうございます」


レノを支えながら、ノアが倒れる壇上中央へ移動するアゲハ。


その時、アゲハの後ろの方からパチパチと手を叩く音が聞こえた。

何かの賞賛なのか、力強いその音は闘技場内に響き渡る。


「素晴らしい。まさかこういう形でアゲハ様がシックス・ホルダーになるとは……」


アゲハが振り向くと石造りの壇上の端に一人の執事が立っていた。

それはアゲハも見慣れた男、クローバル家の執事のラムザだった。


「ラムザ……あなたは……!」


「金獅子が死ななかったのは誤算だったが、まぁ、よしとしましょう」


そう言うと、ラムザは一瞬でその場から消えた。

次に姿を現したのは空中だった。

倒れるノア目掛けて急降下し右ストレートを放つ。


「私が殺せば問題はない」


うつ伏せで倒れているノアまで数メートルと迫った。


そこにラムザへ横に一本のが雷撃が走り、吹き飛ばした。

ラムザは数十メートル吹き飛ばされるが、瞬時に透明の糸のようなオーラがラムザに巻き付く。

そしてそれは勢いよくラムザを地面に叩きつけた。

さらに空中に赤い歪な線走り、ラムザ目掛けて急降下する。


ズドン!という轟音は闘技場に響き渡り、石造りの床は四方八方にヒビが入る。

土煙が上がる中にいたのはアルフィス・ハートルだった。


「回避されたか……」


ラムザは瞬間移動していた。

アルフィスの数十メートル先、闘技場の観客席に足を組んで座っていた。


「まさか……私の拳をうけて生きている?面白い……」


ラムザはアルフィスを見つめニヤリと笑う。

その笑顔は見るものをゾッとさせるような狂気の笑いだった。


「アルフィス!」


「おう。アゲハ、イメチェンか?ショートカットも似合ってるな」


「い、いめちぇん?」


戸惑うアゲハをよそにアルフィスはラムザを睨む。

そしてアルフィスの背後、壇上に近づく二人の姿があった。


「アゲハ、こっちへ。あとは俺らがやる」


「……不死神経リモータル・ナーヴ


それはワイアットとナナリーだった。

ナナリーは剣のグリップを振り、横に振るとノアの体に巻きつき、その体を持ち上げて壇上外まで運んだ。

アゲハとレノは壇上を降り、代わりにワイアットとナナリーが上がった。


陣列は前からアルフィス、ナナリー、ワイアットの順で並ぶ。

三人は観客席にいるラムザを睨む。


「そっから降りてこい。ぶちのめしてやる」


アルフィスの殺気は尋常ではなかった。

ナナリーもワイアットも感じるほどで、その殺気を向けられたラムザは毛が逆立つほどだった。


「それは構わないですが、一つ教えて欲しい。あの状況でどうやって生きてたのか」


「ただの下級魔法と下級スキルの組み合わせだ。大したことしてねぇよ」


「なるほど……最後に名を聞いてもよろしいですか?」


「……アルフィス・ハートル」


アルフィスの言葉にラムザは驚いた表情をした。

その表情を見たアルフィスは少し首を傾げる。


「そうか……どおりで計画が上手くいかないわけだ」


「何を言ってる?」


アルフィスの困惑をよそにラムザは目を閉じて深呼吸する。

そしてラムザは観客席から一瞬で姿を消した。


ラムザは瞬時にアルフィスの目の前まで来た。

現れた瞬間から右ストレートモーションを取っており、完全にアルフィスの胸を捉えていた。


だがアルフィスはスマートな右のショートアッパーで、ラムザの右手首下を打ち、その右ストレートの軌道をずらす。

ラムザの右ストレートはアルフィスの左頬を擦った。


アルフィスは右のショートアッパーを引き、さらに右のショートアッパーをラムザのボディへ叩き込む。

ズドン!という轟音が響き、ラムザが少し宙へ浮き、そこに渾身の左ストレートを顔面に打ち込んだ。

ラムザは吹き飛び地面を転がるが、その最中立ち上がり、踏ん張って耐えた。


「私の拳を弾いて、さらに拳で返してくる……そんな人間は初めてだ……」


「てめぇがやったことに、どれほどの人間が巻き込まれて傷ついて死んでいったか……俺はキレてんだぜラムザ。生きて帰ると思うな」


そう言うと、アルフィスは両太もものバックから火の魔石を取り出して両手に握った。


それを見たラムザは笑みを溢す。


「そうですか……ここで終わらせると……私にも生存本能ぐらいある……本気でいきましょうかね」


その言葉を言い放った瞬間、ラムザの足元からドス黒い煙が巻き起こり、それは闘技場を覆うほどだった。


「アルフィス!なんかやばいぞ!」


ワイアットの叫びに反応するようにアルフィスは後ずさる。

アルフィスは体に違和感を感じていた。

この黒い煙で自身に付与されていた魔法が解除されてしまった。


「まさか……てめぇ魔人か?」


「少し……違います。私はラムザ・サードケルベロス。魔人の上位である"銀の獣"」


その言葉と同時に黒い煙は逆再生されるが如く、ラムザの周りに集まり包み込んだ。

そして一気に煙が晴れると、そこには魔人よりもドス黒い色の人間がそこに立っていた。

短髪の髪は銀色で、それ以外は真っ黒。

顔は人の形はしているが、形だけで目や鼻、口は機能しているのかすらわからなかった。


「"黒衣武装"……これをやるのは何十年ぶりか……」


「アルフィス……あれはマズイわ……」


ワイアットとナナリーはその姿に息を呑むが、

アルフィスは目の前の異様なものを見ても、ラムザへ向かってゆっくり歩く。


「複合魔法・下級魔法強化……」


それを見たワイアットはニヤリと笑った。


「頭イカれてんな。だが……俺は嫌いじゃないぜ」


そう言うとワイアットも左手に中型の魔法具を構える。

そんなワイアットを見たナナリーもため息混じりに笑みを溢した。

そしてラムザへ向かうアルフィスに続いた。


「ここまで来たのなら、最後まで付き合わないといけないわね」


アルフィス、ナナリー、ワイアットの三人は、この世界で最強とも言える存在、"銀の獣"と呼ばれる化け物との戦闘を開始するのだった。

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