疾風
風の国 闘技場
闘技場は赤黒い雲で包まれ、暴風吹き雷が鳴る。
壇上にはノアとアゲハ、そこから数メートル先にカゲヤマが向かい合って立っていた。
ノアが大剣から引き抜いた細い剣は赤黒いオーラを放つ。
それを天に掲げると、竜の咆哮のような音と暴風の中、真っ赤な雷撃が闘技場に落ち始める。
その雷は壇上の石造りの床を抉り、土埃を舞わせた。
ノアの後ろに立つアゲハは後退りするが、その気配を感じたノアは口を開く。
「動くな!"
その言葉にアゲハは動きを止める。
同時に周りで起こっている現象に息を呑んだ。
赤い雷は徐々にカゲヤマに迫った。
たまらず左腰に差した宝具のトリガーに手を伸ばすが、凄まじ暴風がカゲヤマの周囲に起こり、それを許さなかった。
「これは……一体!?」
「聖剣ライト・ウィングの能力は"天候操作"だ」
ノアの言葉の後、カゲヤマが立つ場所にカツカツという音が響く。
それは5センチを超えるほどの雹だった。
大きい雹がカゲヤマの周囲に降り注ぐ。
思いもよらない攻撃にカゲヤマはクロスガードした。
「う!!」
雹はまるで石のように固く、それが猛スピードでカゲヤマに当たる。
その中、さらに赤い雷がカゲヤマを直撃する。
倒れそうになるカゲヤマだが、吹き荒れる暴風がそれを許さなかった。
雹はカゲヤマの全身を傷つけ、赤雷はそこに追い討ちをかけた。
「そろそろタイムオーバーだな……」
ノアはそう言うと、掲げていた細い剣をすぐに大地に突き刺していた大剣に戻した。
ガチャン!と金属音がした瞬間、赤黒いオーラは消え、雹や赤い雷は止み、赤黒い雲が消えていった。
ノアはその場に両手両膝をつく。
アゲハがノアに駆け寄ると、ノアの体はさらに縮み、10歳ほどの少女になっていた。
「アゲハ・クローバル……やつにトドメを……」
アゲハがノアの言葉にハッとして、カゲヤマの方を見ると、全身は打撲のような跡があり、かろうじて立ってはいるが、意識は朦朧としているようだった。
これ以上、カゲヤマに宝具を使わせまいと、アゲハは猛ダッシュした。
刀を左腰に構えて抜刀体制を取る。
それを見たカゲヤマもショートソードを左腰に構えて抜剣姿勢を取った。
アゲハがカゲヤマの目の前に来た瞬間、両者横に刀と剣を引き抜き、それがぶつかる。
鉄と鉄ぶつかる音は闘技場内に響き渡った。
アゲハの刀はカゲヤマの剣を砕き、両者振り抜く。
カゲヤマは力なく前のめりに倒れそうになるのをアゲハは刀を捨てて、カゲヤマを抱き留めた。
そしてそのまま仰向けに寝かせる。
「お見事です……アゲハ様……」
「カゲヤマ先生……」
アゲハの目から涙が落ちる。
カゲヤマそれを最後の力を振り絞って、手で拭った。
「私は途中で負けていました……ノア団長がいなければ私は……」
「いえ、私の負けです……私は剣技よりも宝具の力に頼ってしまった……私の心が負けたのです」
「先生……」
「アゲハ様……これを……」
そう言ってカゲヤマは左腰に差した宝具をベルトから無理やり外しアゲハに渡した。
「ここからまた様々な困難苦難がありましょう……ですがアゲハ様は必ず乗り越えられる」
「私は……二つ名を持っていません……」
アゲハは震えながら号泣していた。
そこに壇上に登ってきたレノがゆっくり近づく。
「僕が与えよう。ずっと君の戦いを見ていたが、その強さ、間違いなくシックス・ホルダーに
アゲハは振り返るとレノを見た。
レノもアゲハを見つめニヤリと笑った。
「"疾風"……"疾風のアゲハ"と名乗るといい。僕は誰かに二つ名を与えたことは無い。そんな風の王が二つ名を与えるんだ、君の家柄はもう何も心配いらないよ」
レノの満面の笑みにアゲハはさらに泣いた。
家柄の件はアゲハが最も不安だったことだったが、それが解消され安堵していた。
「アゲハ様……ここで私が死ねば、天覇一刀流は終わってしまう……もしアゲハ様さえよければ、この剣技をこの世界で繋いでいってほしい」
「もちろんです!天覇一刀流はクローバル家と共にあります!」
「よかったです……」
カゲヤマは満面の笑みでアゲハを見た。
そしてカゲヤマの涙は頬を伝った。
「アゲハ様……優しい聖騎士になって下さい……」
「ありがとう……ございました……」
アゲハの言葉を聞き終えたカゲヤマリュウイチはこの世界で、その生涯を終えた。
そしてアゲハ・クローバルは魔剣レフト・ウィングを手にし、風の国のシックス・ホルダーになった。
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