魔剣レフト・ウィング
風の国 マルロ山脈頂上
クローバル家 別荘
アルフィスは火の魔石を左手に握る。
ナナリーはその後ろに立ち、左腰に差した剣のグリップを握った。
エイベルはうつ伏せに倒れ、血が周囲に広がっていた。
二人の数メートル先にはクローバル家別荘があった。
入り口ドアが倒れ、少し薄暗い室内に見えたのは黒い甲冑の剣士。
左手にはショートソードを持ち、左腰には火縄銃に似た銀色の剣を差していた。
黒騎士はゆっくり外へ出て来た。
その歩みを見たアルフィスは火の魔石を宙に投げる。
「複合魔法……下級魔法強化!」
アルフィスの立つ場所に魔法陣が広がり、それが消えた瞬間に火の魔石を渾身の右ストレートで打ち出す。
火の魔石は弾丸のようなスピードで黒騎士へと向かった。
「
その言葉と同時にアルフィスはその場から姿を消した。
黒騎士はすぐにショートソードのグリップを握り、抜剣し火の魔石を斬る。
そして瞬時にその剣を鞘に戻した。
それは1秒にも満たない速さだった。
二つに分かれた火の魔石は別荘に当たり、二箇所燃え始めるが、即座にその炎は黒騎士の前に現れたアルフィスの右手のグローブに吸収される。
アルフィスは黒騎士の目の前で右ストレートの動作に入っていた。
そして渾身の右ストレートは黒騎士の胴を捉えた。
「ほう……」
だが黒騎士はショートソードを少しだけ抜剣し、放たれたアルフィスの右拳に柄頭を当てて仰け反らせる。
右手は仰け反った先で爆発を起こした。
黒騎士はすぐにショートソードを鞘に戻す。
「天覇一刀流・
「なに!?」
黒騎士が一歩前に出て、仰け反ったアルフィスの顔面目掛けて鞘を逆手持ちのまま横振りした。
なんとかアルフィスはクロスガードするが、あまりの衝撃にガードが弾かれてしまう。
黒騎士はそのまま剣のグリップを握り、一回転して剣を引き抜き、横斬りを放つ。
「天覇一刀流・
それはアルフィスの首を捉えていたが、アルフィスは瞬間移動して数メートル後ろに下がった。
「こいつ……この剣技は……」
「まさか……これを回避するとは……君は私が今まで戦った魔法使いの中で間違いなく一番強い」
そう言いつつ、黒騎士はゆっくり剣を鞘に収めた。
「エンブレム・
その言葉が言い放たれた瞬間、アルフィスの後ろから何かが猛スピードで黒騎士へ向かい、それは黒騎士の胸に当たる。
その衝撃で吹き飛ばされた黒騎士は別荘内に押し込められた形だ。
「
アルフィスが後ろを振り返るとナナリーは突きのモーションをしていた。
その剣には刃が付いておらず、グリップだけを握っていた。
アルフィスが目を凝らし、そのグリップの先をよく見ると薄くオーラが放たれており、そのオーラは糸のように剣の刃があるはずの場所を漂っている。
ナナリーは剣を前に出すと、糸のようなオーラがどこまでも伸び、その糸は別荘を巻いた。
そしてナナリーが一気にグリップを横に払うと、剣線の残光が無数に走り、オーラの糸が握りつぶすように別荘を一瞬にして切り刻んだ。
別荘は潰れ砂埃が舞っていた。
「な、なんだ、このデタラメな剣技は……」
唖然とするアルフィスだったが、ナナリーは潰れた別荘を鋭い眼光で睨む。
それはいつもの虚な目と違った。
「終わったのか……?」
アルフィスは不意打ちを警戒し、火の魔石を左太もものバックから取り出そうと開ける。
するとバックの中の火の魔石が重力に逆らい、全て宙に浮き始めた。
「はぁ?なんだこれ!?」
「宝具の力を解放したようね……」
周囲の軽い石などが宙に浮き、さらに切り刻まれた別荘の残骸もゆっくり宙に浮き始める。
その真ん中には黒騎士が立っていた。
左腰に差した剣から異様な赤黒いオーラが放たれている。
「魔剣レフト・ウィング……モード"
周囲の状況にアルフィスは驚くが、これがこの宝具の能力なのだろうと悟った。
「やっぱり、てめぇがシックス・ホルダーか……"宝具"に"アゲハの剣技"とは厄介すぎるだろ……」
「ん?今なんと言った?」
アルフィスは黒騎士の不意な言葉に驚いた。
どの単語に黒騎士が反応したのかわからなかった。
アルフィスが戸惑っていると、後ろから肩を叩かれた。
アルフィスが振り向くと、先ほどまで倒れていたエイベルだった。
髪は解け、胸は斜めに切り裂かれ血がまだ流れていた。
「アルフィス、ナナリーと一緒に山を降りろ。すぐに村にいる三人と合流するんだ」
「何言ってんだ!お前その傷でどうすんだよ!」
アルフィスの言葉に返答せず、黒騎士の方へ歩き出すエイベル。
「ナナリー、アルフィスを連れて行け。お前にはわかるだろ。あの剣士は危険だ。ただの人間じゃない」
ナナリーは一瞬、思い詰めた顔をしたが、剣を振い、アルフィスの胴にオーラの糸を巻きつけ拘束した。
「おい!何すんだテメェ!」
ナナリーはアルフィスの言葉にお構いなしに、一気に山道へ走りだす。
アルフィスは引きずられていった。
黒騎士がそれを追おうと、ダッシュの体制を取った瞬間、別荘の周囲を囲むように岩壁が突き上がった。
「なんと……その傷で仲間を逃し、私と一人で戦うか……」
黒騎士はゆっくりエイベルの方へ歩く。
崩れた別荘から出た黒騎士は赤黒いオーラを放つ左腰の剣の柄を右手のひらでトンと叩いた。
すると宝具から赤黒いオーラは消え、周囲に浮かんでいた物が一斉に地面に落ちた。
それを見たエイベルは少し驚く。
だがエイベルは一歩も引かず左手に持つ大きな杖を前に構えた。
「"鉄壁"の名に懸けて……ここは通さんよ」
エイベルは鋭い眼光で黒騎士を睨んだ。
その目はブラウンに光り、黒髪には銀色が多く混ざって発光している。
一方、顔も見えぬその騎士からは、これ以上無いほどの殺気が放たれていた。
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