アーサル村にて


風の国 アーサル村


二つ名はそれぞれチームを組み、別行動をしていた。


○マルロ山頂を目指すチーム

鉄壁のエイベル

魔剣のナナリー

魔拳のアルフィス


●アーサル村に残るチーム

双剣のエリス

剛剣のヴァイオレット

迅雷のワイアット


この二手に分かれて行動する。


マルロ山頂を目指すチームであるアルフィス達は一足先にアーサル村に到着していた。

半日遅れでエリス達が到着し、そのままアーサルに残って待機だ。


村に到着していたアルフィス、エイベル、ナナリーの三人は村の様子を伺うが、特に変わったところは無かった。


「このまま山道に入る。戦闘時の隊列だが、前衛がアルフィス、中衛がナナリー、後衛が私でいく」


エイベルの指示にアルフィスは驚く。

聖騎士であるナナリーが中衛というのが引っ掛かった。


「ナナリーが中衛?どういうことだ?まぁ俺はインファイターだからそっちの方が助かるが……」


「このチームはいい構成だ。ノアはよく考えているよ。ナナリーはどちらかと言えば魔法使いに近い立ち位置だからね」


アルフィスは首を傾げた。

魔法使いに近いというならメルティーナのように飛び道具でも使うのかと思った。


「とにかく進もう。アルフィスは自由に戦え。ナナリーはその戦い方に合わせて"リモータル・ナーヴ"を使うといい」


「了解」


いつも無口だったナナリーがようやく口を開く。

ただ相変わらず虚な目をしており、何を考えているのかさっぱりわからなかった。


アルフィス達、三人は山道へ入って行った。

登るにつれて一面に森が広がる。

山道が無ければ確実に迷子になりそうだった。

ここから半日かけて山を登る。


数時間歩いて先頭を歩くアルフィスが違和感に気づいた。


「なんか……魔物の気配が全くない気がするんだが……」


「確かに……魔物はこういう明るく湿った場所を好むはずだが……」


「……」


アルフィス達は周りを見るが森は静かだ。

鳥のさえずりも聞こえ、明らかに今までまで入った森とは雰囲気が違っていた。


そして山頂付近に到達した頃だった。

アルフィス達は森の様子を見て驚いた。


地面に何かに切り裂かれたような跡が斜めに"三本"ついていた。

それは、まるで巨大な生物の爪痕のようだった。


「なんだこれは……ここで戦闘したのか?」


「微量に魔力を感じるな……恐らく魔法使いがやったのだろうが、これほど高威力の魔法が使える者は少ない」


いつも涼やかな笑顔のエイベルも、この魔法の跡には息を呑んだ。


「そういえば強い魔人が出るとか言ってたが、どこにいるんだ?」


「まだ潜んでいる可能性もあるが気配を感じない。もしかしたら先客が来て倒してしまったのかもしれない」


「先客?敵なのか?」


「いや、これは魔法だ。カゲヤマは魔法使い狩りをしているから、魔法使いが仲間というのは考えづらい。恐らく私達の他にカゲヤマを追っている者がいて、先にこの山道に入ったのかもしれない」


「別荘に行けばわかるか……」


アルフィス達は不気味な地面の爪痕を後にし、山頂の別荘を目指した。



________________




エリス、ヴァイオレット、ワイアットがアーサル村に到着した。

三人は村の入り口で辺りを見渡すが特に異常な点は見当たらなかった。


「俺もエリスちゃんと山登りしたかったなぁ」


「貴様……やめろと言ってるだろうが……」


ヴァイオレットは二人のやり取りを見て"また始まるな"と思い、その場を離れた。

村は見て回るほど大きいくは無かったが、気晴らしには充分だった。


マルロ山脈の山道へ向かう村の出口付近に来たヴァイオレットは一人の男とすれ違った。


ヴァイオレットは振り向く事なく、男に話しかけた。


「おい、あんた」


「ん?なんでしょうか?」


ヴァイオレットが振り向く。

男は少し笑みをこぼして彼女を見ていた。


「お前、その格好……この村の人間じゃねぇな。山登りする格好にも見えんが」


その男の格好はどう見ても執事服。

それは薄く黒い執事服に黒いネクタイ。

髪は短髪の白髪で上品な顎髭あごひげを生やした初老の男だった。


「あなたもその特大剣……レディが持つには上品さに欠けますね」


ヴァイオレットの"こめかみ"に血管が浮き出る。

鋭い眼光で男を睨んだヴァイオレットは背中に背負っていた特大剣のグリップを右手でゆっくり握った。


「申し訳無いが、私は先を急いでいますので失礼しますよ……」


そう言って執事風の男は頭を下げて去ろうとした。


ヴァイオレットは猛スピードで走り出し、背中にあった特大剣を思いっきり引き抜き、横の回転斬りをその男目掛けて放った。

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