チーム


風の国 中央レイメル


聖騎士団 会議室


会議室には二つ名の六人とノアがいた。


アルフィスは壇上に立つノアからシックス・ホルダーの名前が書かれた資料である紙を奪い読んだ。


「カゲヤマリュウイチだと……?」


アルフィスにはその名前には心当たりはなかったが、それは明らかに自分と同じ日本人だった。


「こら!返せ!」


ノアがジャンプしてアルフィスからその資料を奪い取った。

椅子に座っていたエイベルとワイアットは顔を見合わせていた。


「とにかく座れ!」


そう言ってエリスがアルフィスを睨んでいる。

アルフィスはそんなエリスを見て、一旦自分が座っていた席に座る。

アルフィスは変な汗をかいていた。

水の国でリヴォルグも言っていたが、自分と違って体ごと転生してきてる人間がいる。


それを見届けたノアがコホンと咳払いをして口を開いた。


「この男が現在のシックス・ホルダーのようだ。ガウロの話しだと剣の達人だそうだ」


「へー男なのに剣を使えるとはな」


ヴァイオレットがニヤリと笑う。

今すぐにでもその男と戦いたいという顔をしている。


「動機はまだ不明だが、どうやらクローバル家は"転生術"をおこなってこの男を別の世界から呼び出したらしい」


「まさか……無属性魔法か……まだ書物が残っていたとは」


エイベルが驚いた表情で発言する。

アルフィスは無属性魔法という言葉は聞いた事がない。


「無属性魔法?そんなの聞いたことないぞ」


「まぁ王が禁忌と定めてからだいぶ経つからな。知ってる人間は少ないだろ」


ワイアットの言葉にアルフィスは昔を思い出していた。

猫アルから教わったのは火の魔法だけだ。

そしてこの世界に存在するのは火、土、水、風の四種類の魔法だけだと思っていた。


そこにエイベルが神妙な面持ちで口を開く。


「無属性魔法は時間と空間を操る魔法。例を言えばワープ魔法もその一つだ。この魔法はあまりにも危険なため禁忌として封印された。たまに人里離れた村や町などに文献が残ってたりするが、現在、無属性魔法を使えるのは"王"だけだ」


「あと"魔女"とかな」


ワイアットが発言した瞬間、会議室が凍りつく。

その雰囲気を察したアルフィスは"魔女"というものは、この世界では異質な存在なのだと悟った。

そもそも女性は魔力を持たないのに、"魔女"なんておかしいのではないかとまで思った。


「とにかく、このカゲヤマをなんとかするために我々が動く。情報によると、どうやらクローバル家の別荘にいる可能性が高いということだ」


ノアが発言した後、ノアの後ろ隣にいたエリスが前に出る。


「そこでチーム分けをする。全員でぞろぞろ行ったら敵に気づかれる可能性があるからな。別荘があるマルロ山脈山頂を目指すチームと手前の村のアーサルに残るチームで別れる」


エリスの言葉に皆が無言で聞き入る。

アルフィスも作戦会議なんて参加したことがないので少し緊張感していた。


「まず山頂を目指すのはエイベル、ナナリー、アルフィス。村に残るのはワイアット、ヴァイオレットと私だ」


「はぁ?なんで俺が残るんだよ!」


ワイアットは全く納得がいっていなかった。

それは自分の目的を達成したい思いもあり、またアルフィスへの対抗心もあった。


そこにエリスの後ろに立つノアが口を開く。


「文句を言うな!マルロの山頂付近には強い魔人がいると聞いてる。それを高速で処理して頂上を目指すならこの構成がベストだ。なによりお前の魔法は目立ちすぎる」


「……」


「それにもしかしたら村にカゲヤマが現れる可能性だってある。どちらも大事な役割だ」


そのノアの言葉にワイアットは渋々納得した。

ノアの指揮官としての能力は非常に高いということは二つ名なら皆知っている。


「私はやる事があるから、一旦セントラルに戻らねばならない。早急に用事を済ませて、すぐ合流する。以上だ」


そう言うとノアは退出した。

アルフィス達もそれに続き、レイメルの入り口門前まで来た。


ノアが馬車に乗ろうとした時、思い出したようにアルフィス達を見た。


「そういえば、クローバル家の執事も行方不明だそうだ。恐らくカゲヤマが人質にでもしたのではないかと思っている。だが行方不明になってからもう一年以上経ってるから殺されてるかもな」


それだけ言うとノアは馬車に乗り込みセントラルへ向かった。


アルフィス達は目立たぬようにと、チームで分かれて馬車でマルロ山脈近くのアーサル村を目指した。

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