旅路の終わりと

水の国からセントラルに到着したアルフィスは、久しぶりに魔法学校に顔を出した。

ザックやライアン達に驚かれ、さらにレイアには泣かれてしまった。


水の国での冒険を話したら、3人はやっぱりという顔をしながら、後半の部分では言葉を失っていた。


途中、アルフィスはアインにも会った。

サーシャが帰って来たという話をしたら、アインはその場で両膝をついて泣いていた。


アルフィスもそんなアインの姿を見て、涙目で鼻をかいた。


「アルフィス……すまない……この借りは必ず……」


父親と同じことを言うアインに苦笑いするアルフィスだったが、その言葉を無碍むげにするわけにもいかないので頷いた。


セントラルでの用事も済んだのでアルフィスとロールは南東門まで来ていた。

しかし、そこにアゲハの姿は無かった。


「あれ?アゲハさんはどうしたんだ?」


「ああ、なんか実家から手紙来てたみたいで、急いで風の国へ行ったぜ。まぁ、ずっと戻ってなかったからいいんじゃないか」


アゲハはずっとアルフィスと共に旅をしていたので一年以上、実家には帰っていなかった。


「それじゃ、またこっから長旅行きますか」


「ああ。旅は道連れって言うからね」


二人は笑い合うと、さらに南への旅路へ赴いた。



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火の国 港町ベルート



到着するまで一週間半かけてようやく到着した。

ここまで、どこにも寄り道せずに来たので、二人の疲労は限界に達していた。


「も、戻ってきたな……」


「た、確かにラタムとあまり変わらない大きさだね……」


二人はハートル家の屋敷に急いだ。

屋敷の前では執事のレナードが迎えてくれた。


「ぼっちゃま、お元気そうで……」


「おう!父さんは?」


すぐさま自分の身の安全を確認するため、危険人物の行方を探るアルフィス。


「セントラルに呼ばれたようで、数日前にリン様と赴かれました。今は不在です」


レナードがそう答えると、アルフィスはガッツポーズした。


「よっしゃ!計画通り!」


「計画?なんの話?」


ロールは首を傾げていた。

アルフィスの喜びようで、父親との間には何かあるとは思ったが、さらに何かよからぬ計画を立てていたようで気になった。


「水の国からセントラルに着く前に手紙出しておいてたのさ。セントラルに呼び出すためにな!」


「な、なんでそんなことを?」


「邪魔されたくないからに決まってるじゃねぇか!変な薬持って来たとかで騒がれたくないからな!」


そう言って屋敷の中に入っていくアルフィスをレナードとロールは追いかけた。



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アルフィスとロールはアメリアの部屋にいた。

ロールとアメリアが向かい合って椅子に座り、容体を見ていた。


アルフィスはアメリアの包帯の下を見た事は無かったが、初めて見る"竜血病"の症状に言葉を失っていた。

黒いアザはアメリアの喉のあたりまで迫っており、それはもう残された時間が少なかったことを示しているようだった。


「薬、投与しますが大丈夫ですか?」


ロールはアメリアに確認した。

見たことも聞いたこともない薬なら誰でも不安にもなる。

だがアメリアは笑顔で頷く。


「大丈夫よ。私の息子が命を賭けて持って来てくれたものですから」


「わかりました」


ロールはアメリアに薬を注射した。

アメリアは一切、痛がったり、苦しむことは無かった。


その後、何日かロールに診てもらい、薬の投与も続けてもらうと腕はだんだんと本来の肌の色を取り戻し、二、三日経つと完全にそれは治ってしまった。



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アルフィスは屋敷の外でロールを見送るところだった。

ロールは荷馬車の前に立ち、アルフィスと向き合う。


「ここまで来てくれて感謝してるぜ」


「いいんだよ。僕の医者志望が役に立ってよかった」


ロールは笑みをこぼした。

本当は医者になりたかったロールが初めて治療した患者が友達の母親で、それが完治したのならこれほどの喜びはなかった。


「お前がいたおかげでここまで来れた。帰ってメルティーナに会ったら同じことを伝えてくれ」


「わかった。何かあったら手紙をくれれば飛んでくるよ」


「ああ、お前も、何かあれば手紙くれ。必ず助けに行く」


そう言って二人は笑い合って握手したが、お互いの目には涙があった。


アルフィスはロールが乗る荷馬車が見えなくなると、屋敷の裏の海岸へ向かった。



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海岸はもう夕日が沈みそうだった。

防波堤に座るアルフィスはここまでの冒険を思い出しながら、その夕日を見ていた。


そこに一匹の黒猫がアルフィスにちょこちょこと近づいてくる。

そしてアルフィスの横に座った。


「お前の願いは叶ったぞ。アルフィス・ハートル」


アルフィスは夕日を見ながら黒猫に話しかけた。

黒猫はじっとアルフィス見ている。


「なかなか楽しい旅だったよ。強いやつとも戦えたし、強くもなったし、さらに強くなる方法も聞けた。俺はお前に感謝してる」


そう言ってアルフィスは隣に座る黒猫に、出会った時のように握手しようと手を伸ばした。


だが、黒猫はアルフィスの手をペロペロと舐め、頭を擦り付けるだけだった。


「そうか……お前だけだったんだがな、この世界で俺の本当の名前を知ってるのは……まぁ、またどこかで会おうアルフィス・ハートル」


そう言ってアルフィスは黒猫の頭を撫でた。


そして落ちる夕日を眺め、誰もいない防波堤でアルフィスは泣き続けた。





第二章 水の国編 完


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アルフィスは急いで旅の準備していた。

父が帰って来る前に土の国へ行かなければと。


そんなアルフィスを見ていた母アメリアは呆れていた。

屋敷の玄関前で身支度を済ませたアルフィスが出発するところだったのだ。


服装は魔法学校の制服ではなかった。

白ワイシャツの上に黒のジャケットを羽織り、下は黒いレザーパンツを身につけブーツを履いている。

袖を膝のところまで捲り、両手には漆黒のグローブ、両足の太ももにはブラウンの小型のバックを付けている。


「アル、せっかく帰ってきたのだからもう少しゆっくりしてればいいんじゃない?」


「いやぁ、そうしたいのは山々なんだけど強い奴が俺を待ってるからさ!」


そう言って、床に置いていた中型のボストンバックを持つアルフィスにアメリアはさらに呆れて、ため息までついた。

いつからこんな子になってしまったのか。


「それじゃ!行ってくるぜ!」


「はいはい。土の国はここより暑いから気をつけてね」


もう止めても無駄だろうと、笑顔で送り出そうとするアメリア。

アルフィスは玄関のドアを開けて出ようとした時だった。

執事のレナードが奥の部屋から急いで出て来た。


「ぼっちゃま!お出かけの直前に申し訳ありません、本日届いたお手紙の中にぼっちゃま宛のものがありまして……」


そう言ってレナードは一通の手紙をアルフィスに渡した。


「俺宛?珍しいな……」


アルフィスは手紙自体あまりもらったことがない。

魔法学校時代は母のアメリアから何通か送られて来ていたが、それだけだったと記憶している。


アルフィスは封を開け、手紙を取り出して読んだ。


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"二つ名・招集"


●魔法使い

鉄壁のエイベル・ノアール殿

迅雷のワイアット・スコルピ殿

魔拳のアルフィス・ハートル殿


○聖騎士

双剣のエリス・マーデン殿

剛剣のヴァイオレット・ペレス殿

魔剣のナナリー・ダークライト殿


シックス・ホルダー討伐および

宝具 魔剣レフト・ウィング奪還作戦


早急に風の国・中央レイメルに来られたし



作戦指揮官 聖騎士団団長ノア・ノアール



以上


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アルフィスはこの手紙を読んで絶句していた。

確かに旅に出る予定ではあったが、それは土の国へであって風の国へではない。


アルフィス・ハートルは知らぬ間に国家の重大危機に巻き込まれるのであった。

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