風の国編
魔剣のナナリー
火の国 ロゼ
港町 ベルート
ハートル家の屋敷内、玄関前に立つアルフィス・ハートルは送られてきた手紙を読んで言葉を失っていた。
「アル、どうかしたの?」
母アメリアと執事レナードは心配そうにアルフィスの顔を見る。
アメリアがアルフィスに近づき手紙を覗き込んだ。
「二つ名招集?」
アルフィスがその内容を見るに水の国のシックス・ホルダー、リヴォルグ・ローズガーデンから聞いていた内容そのままだった。
風の国で宝具が盗まれて、謎のシックス・ホルダーが使い手だと。
「リヴォルグが言ってたやつだな……俺には関係無いと思ってたが」
「シックス・ホルダーを討伐するために、その候補者を集めるなんて、ノアちゃん思い切ったことするわね」
アメリアがクスクスと笑う。
「母さん、ノアのこと知ってるのか?」
「ええ。私が引退した後、短期間だけ指導員として聖騎士学校に行った時の最初の頃の生徒よ」
アルフィスは驚いた。
まさかアメリアとノアにこんな繋がりがあったとは思いもよらなかった。
さらにアメリアが聖騎士学校の先生をしていたのにも驚いた。
「ノアちゃんは性格が面白くて、あと背もすごく大きかったから目立ってたわね」
「は?」
アルフィスは耳を疑った。
性格が面白いのはさておき、背が大きかったという言葉が気になった。
「いや、あいつガキみたいな体してるぞ……」
「え?そうなの?まぁ歳をとると縮むって言うからね」
アメリアはまたクスクスと笑っていたが、目立つくらい背が大きい人間が、子供のように小さくなることなんてあるのだろうかとアルフィスは首を傾げた。
「それはさておき、これは絶対に行った方がいいわね」
「なんでだよ」
アルフィスの発言にアメリアがため息をついた。
そして真剣な眼差しでアルフィスを見る。
そのアメリアの顔を見たアルフィスは息を呑んだ。
「アルフィス!風の国に強い奴がいるわよ!」
アルフィスはハッとした。
自分は強い奴と戦いたいから旅をするつもりだった。
その強い奴が、今まで勝ったことがないシックス・ホルダーとなれば行かない道理はない。
「母さん……俺、風の国へ行くよ……」
アルフィスは涙を堪えながら天井を見る。
母アメリアから大事な何かを思い出させてもらった気がした。
「そうね!……あ、それと風の国へ行ったついでにハーブティーを買って来てくれる?やっぱり本場のものが飲みたいわ」
「ああ!任せとけ!それじゃ行ってくる!」
アルフィスは元気に屋敷を飛び出した。
アメリアは笑顔で手を振ってそれを見送る。
アルフィスはアメリアの口車に乗せられたことには一切気づかず、通り道であるセントラルを目指した。
___________________
セントラル 南東門前
アルフィスはセントラルに入るために行商人に混じり並んでいた。
相変わらずかなりの列で30分以上待ってようやく門前に到着したアルフィスはため息をつく。
セントラルの門前にはいつも通りの門番の聖騎士がいた。
この女騎士の名前は知らないが、もう顔馴染みのようなものだった。
「お、アルフィスじゃないか。また国境越えか?」
「ああ、また面倒ごとだ」
門番の聖騎士の苦笑いした。
二つ名持ちはある意味、使いっ走りにされることは門番なら知っていた。
「二つ名も大変だな」
「本当にな。なんでこんなもんみんな欲しがるかねぇ」
「逆に"いらない"なんて言うのはお前だけだよ」
アルフィスはその言葉に頭を掻く。
この二つ名のおかげで助かった面もあるが、災難も多い気がした。
そんな会話をしていると、列を無視して貴族用の馬車が門前にやってきた。
「またかよ……」
アルフィスは呆れていた。
以前にも図々しく列を無視していた世間知らずの者がいたことをアルフィスは思い出していた。
だが、門番の聖騎士はその馬車を見て異常なまでに緊張していた。
その馬車のドアが開き、出てきたのはアルフィスが見たことのない聖騎士だった。
真っ黒なロングヘアで日本人形のような髪型、目は
聖騎士学校の制服に似たブレザーを着ているが、上から黒いマントを羽織っている。
アルフィスは何よりもこの聖騎士が左手に持っている剣が気になった。
グリップが何かの骨のようで
「通ってもいいかしら?」
か細い声だった。
門番の聖騎士がビクビクと少し震えていたのがアルフィスにもわかった。
「は、はい……ナナリー様……どうぞ」
門番は涙目で頭を下げる。
ナナリーと呼ばれた聖騎士はすれ違い様にアルフィスを見た。
目が合ったアルフィスも息を呑み、この聖騎士は"強者"だと直感した。
ナナリーはそのままセントラルへ入って行った。
「なんだ、あいつは……」
「ば、馬鹿!声がデカい!あの方は二つ名の魔剣のナナリー・ダークライト様だ」
「魔剣?」
その二つ名を聞いてアルフィスは首を傾げた。
魔剣といえば、アルフィスの魔拳と音がかぶっている。
「そういえば、お前も魔拳だったな。まぁ名付け親が同じセレン様だからだろうけど」
「あいつもセレンから二つ名を?」
「だから声がデカい!」
そう言って門番の聖騎士は小声になりアルフィスに近づく。
よほどあのナナリーという聖騎士が怖いらしい。
「噂だと昔セレン様の部隊にいて、セレン様に戦いを挑んだらしい」
「なんだと……」
なんとアルフィスと同様にセレンに喧嘩を売った人間が先にいたのだ。
それが先ほどの黒髪の女性、ナナリーだった。
「ああ、セレン様に顔面殴られたが、痛がるどころか睨み返したって」
「マジか……そういえばセレンのやつ、俺で二人目とか言ってたな……」
セレンが殴って立っていた人物は二人いた。
その一人のアルフィスはセレンの拳を受けて立ったまま気絶している。
だがナナリーという聖騎士は殴られても平気でセレンを睨み返すとは、そのタフさは尋常ではない。
「今はセレン様の部隊から離れて一人で行動しているみたいだな」
「一人?バディはいないのか?」
その言葉に門番の聖騎士は表情を曇らせた。
アルフィスは何かマズイことでも聞いたような気がした。
「お前、魔剣のナナリーの噂、何も知らないのか?」
「いや、何も」
キョトンとしているアルフィスに呆れ顔で門番の聖騎士は耳打ちした。
「彼女は別名・死神ナナリー。組んだバディがことごとく死ぬんだよ。何があっても彼女とは組まない方がいい」
アルフィスはこの言葉を聞いてナナリーとは絶対にバディにはならないと心に誓った。
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