帰還へ
アルフィスとアゲハ、メルティーナ、ロールはリヴォルグの軍と共に中央ベネーロまで帰ってきていた。
ありがたいことに、アルフィスは今回の功績の報酬として竜血を浄化する薬を貰った。
さらにロールもバディのジーナに効く薬を貰っていた。
そして、アインの妹のサーシャは無事に魔人化が解かれた。
さらに魔人化していた時に病気が全て治っていたようで、以前よりも体が丈夫になっていた。
スペルシア家 屋敷前
朝方、屋敷の前にはアルフィスとリヴォルグ、ロール、そしてサーシャが来ていた。
屋敷からは執事のリチャードが出てきたが、サーシャの顔を見た瞬間に涙し、急いで屋敷の中へ戻り、当主のヴェインを呼んだ。
ヴェインが屋敷のドアを開けサーシャを見ると、いつも冷静沈着のヴェインだが、この時ばかりは涙していた。
「お父様!」
笑顔でサーシャはヴェインに走った。
ヴェインはそれに応えるように、両手を広げてサーシャを迎えた。
「すまない、すまない……私のせいで辛い思いをさせた……」
「いいのです」
長く抱き合う父娘の姿を見ていたアルフィス達、二人もそれを見て涙していた。
「サーシャ、中に入っていなさい」
ヴェインがそう言うと、サーシャは笑顔で頷き、リチャードに連れられて屋敷の中に入って行った。
「リヴォルグ……デカい借りができたな……」
「いや、私は何もしてないよ。私は"白銀"を討伐するはずだったからね。借りを返すならこの二人にすることだ」
そう言ってリヴォルグは振り向きスペルシア家を一人、後にした。
ヴェインはアルフィスを鋭い眼光で見るが、その目には最初に会ったときのような敵意は無かった。
「アルフィス・ハートル。礼を言わねばな……」
「別にいいさ。ダチの家族は俺の家族も同然だ。それに俺が何かしたわけじゃない。ロールのおかげさ」
アルフィスはロールの背中を叩いた。
ロールはそれに驚いて一歩前へ出た。
「い、いや、僕は何も……ただ"癒しの雨"を降らせただけです……」
「なるほどな……」
ヴェインはロールが持っている異様に大きい杖を見ていた。
その眼光にロールが息を呑んだ。
「宝具は使い手を選ぶというがアーティファクトもそうなのかもしれんな。リーゼ王の"竜骨の杖"か……君がその杖を持っている理由がわかった気がするよ」
「え……?」
「最初にここに来た時にもしやと思った。だが本物の竜骨の杖だったとは。それは宝具に次いで最強の杖だ。魔法使いなら誰もが欲しがる」
ロールは竜骨の杖を見た。
確かにリーゼ王が持つほどの杖なら納得ではあったが、そんな凄い杖をなぜ自分に預けたのかわからなかった。
「その杖は術者を必ず守ると言われている。だが、その能力が発動するのは、その杖が認めた者だけらしい」
「そうか……だから、勝手に水の幻影が発動してたのか……」
「君は王とその杖に認められた者だ。もっと堂々としてなさい」
ヴェインのその言葉を聞いてリーゼ王から言われたことを思い出していた。
そしてロールは涙目で頷いた。
「んじゃ帰るか。じゃあな、おっさん」
アルフィスは振り向き帰ろうとしていた。
ロールもヴェインに会釈してアルフィスに続いた。
「アルフィス・ハートル」
「ん?」
アルフィスはヴェインに不意に呼び止められ、振り向く。
やはりアルフィスを見るその眼光は鋭い。
「スペルシア家は必ず借りを返す。何か困った事があれば、私宛に手紙を書くといい。私は必ずお前を助ける」
それだけ言って、ヴェインは屋敷の中へ入って行った。
アルフィスは何か頼めることあったかを考えたが、特に思い当たらなかったのでロールと共にスペルシア家を後にした。
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メルティーナは帰って来てから自室にいた。
机に座り、セシリアからの手紙を読んでいた。
ベネーロに帰って来た時に部隊の仲間から渡されたものだ。
その中にはメルティーナに対しての多くの謝罪の言葉とセシリアが飼っていた二匹の猫の世話をしてほしいというのとが書かれていた。
メルティーナは読む勇気がなかったが、セシリアの最後の言葉を無駄にはしたくないと読み進めていた。
"私はメルティーナお嬢様が羨ましかった。そして嫉妬してしまった。その嫉妬は病のように心を
"この手紙がお嬢様の元に届いているのなら、私は恐らく死んでいるのでしょう。これからはメルティーナお嬢様がリヴォルグ総帥のお近くにいて下さい。あの方にはお嬢様が必要です"
この文章にメルティーナは涙した。
言葉ではメルティーナを
メルティーナは今の部隊を離れ、セシリアの代わりに父リヴォルグのすぐ後ろにいようと決意した。
そしてメルティーナはその手紙の一番下に書かれた文章まで辿りついた。
"アルフィス・ハートルに伝えてほしい事があります。……"
メルティーナは首を傾げた。
この先の文章を読んでもよくわからなかった。
セシリアとアルフィスは仲があまりいいように感じなかったので、アドバイスのようなものをするなんて思いもよらなかった。
メルティーナはこの文章について少し考えていたが、明日故郷へ帰るアルフィスに伝えればわかるかもしれないと思った。
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早朝 ベネーロ南門
アルフィス達の出発の日だった。
メルティーナとリヴォルグが見送りで門前にいた。
アルフィス、アゲハ、ロールの三人は荷馬車に乗り込む前だった。
「世話になったな!」
「お世話になりました」
アルフィスが笑顔でメルティーナとリヴォルグを見る。
アゲハは頭を下げ、別れの挨拶をした。
「また、水の国に来る事があれば寄るといい。君達ならいつでも歓迎するよ」
「まぁ、来る前に手紙でもくれればお茶くらいは用意しとくわ」
リヴォルグは笑みをこぼす。
素直になれないメルティーナは名残惜しそうな雰囲気だった。
そしてメルティーナはなぜかアルフィス側に立っているロールに目をやった。
「そういえば、ロール、あんたも行くの?」
「あ、ああ」
ロールは苦笑いした。
本当は水の国の軍に残るつもりでいるということはメルティーナには伝えていた。
「ああ、こいつちょっと借りてくぜ。そこらへんの医者より信用できっからベルートまで来てもらう」
「あらまぁ長旅ね」
メルティーナも笑みをこぼした。
だが自分も一緒に行けたらという寂しい気持ちもあった。
メルティーナはそれが少しだけ顔に出ていた。
「まぁ、また来るさ。今度、会う時は総帥様には負けねぇぜ」
アルフィスの発言にみんなが笑い、そして三人は荷馬車に乗り込んだ。
そこにメルティーナが何か思い出したように荷馬車に近づいた。
「ああ、アルフィス、セシリア総隊長から伝言があるわ」
「セシリアから?」
「うん。私には意味がわからなくて……」
アルフィスは首を傾げた。
セシリアとはあまり話しをしないどころか、アルフィスの嫌いな人間ランキング上位人物だ。
亡くなったとはいえ、さすがに気持ちはすぐに切り替えられない。
「その伝言ってなんだ?」
「"もし王に挑むなら三匹の銀の
アルフィスは再度、首を傾げる。
セシリアには王に挑むという話はしていない。
いつもこの話をするとバカにされるので、友達であるアゲハやロール、メルティーナにもしていなかった。
「意味がわからん……まぁどうでもいいや」
その言葉を聞いたメルティーナはいつものアルフィスだなと呆れてため息をつき、大きく手を振って荷馬車を見送った。
メルティーナのその目にはいつの間にか涙が溢れていた。
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