スペルシア家の令嬢
アルフィスはリヴォルグの書斎にいた。
そしてアルフィスの後ろには何故かロールも立っている。
リヴォルグは机に着き二人と向かい合っている形だ。
書斎には今この三人しかいなかった。
「本題からいこう。最近スペルシア家の令嬢が亡くなった。表向きは病死で葬儀も
「腑に落ちない?どういうことだ?」
アルフィスは首を傾げた。
この件はローズガーデン家とスペルシア家を潰そうとしている者がいる陰謀説の話だとはわかった。
しかしアルフィスはその令嬢が病死で葬儀もやったのなら、そこには何も陰謀のようなものは感じなかった。
「私も出席したが普通なら棺桶の中に花を入れるのが敷きたりだが、それが無かった」
「……遺体を見せられるような状態ではなかったんじゃないでしょうか?」
ロールがビクビクしながら質問する。
確かにそういう場合もあり、その時は参列者が棺桶の上に花を置くことになっていた。
「私もそれは考えたが、どうもそういう訳ではないらしい。小耳に挟んだがスペルシア家の令嬢のサーシャは生前、とても美しい姿をしていたそうだ」
「んー。そんなに綺麗ならなんでだ?」
「それを調査して欲しい。スペルシア家には私の代わりに挨拶ということで君たちを行かせる」
リヴォルグは恐らくこれは暗殺なのではないかと思っていた。
なぜローズガーデン家とスペルシア家を潰そとしているのかは不明だが、ここから何か手がかりが掴めないかと考えていたのだ。
「一応、君にはメルティーナとロール君をつけるよ。メルティーナはサーシャとは仲が良かったからね」
「いいのか?このことは知らないんだろ?」
「別に深く話をするつもりはないさ。ただサーシャの死に少し疑問があるとだけで十分だ」
「なるほどな。それよりもなんでコイツも一緒なんだ?」
アルフィスは振り向きロールを睨む。
ロールはアルフィスの眼光にビクビクと怯えていた。
「誰にだって挽回の機会は必要だよ。もしかしたら役に立つ人材かもしれないよ」
「今度逃げたらタダじゃおかねぇからな」
アルフィスの言葉にロールは顔を青ざめさせたが、リヴォルグはそんなやり取りを笑って聞いていた。
「ああ、そうだ。アルフィス君にプレゼントがあるんだ」
そう言ってリヴォルグは机の引き出しを開け、一つの箱を取り出した。
リヴォルグが箱を開けると真っ黒なグローブが入っていた。
「なんだこれ?」
「私が以前に使っていたものだ。グローブ型の魔法具でね。つけてみたまえ」
アルフィスは箱に手を伸ばしグローブを取って両手につけた。
グローブは薄手でアルフィスの手にフィットしていた。
手の甲の部分を見ると円状の白い魔法陣が描かれていた。
「まぁ無いよりはマシか。ありがとな」
「このグローブは必ず君の力になるよ」
そのグローブを受け取るとアルフィスとロールは書斎を後にし、屋敷の外でメルティーナを待った。
「スペルシア家といばアインのところか」
アルフィスはアインが家族を失ったんだなと考えていた。
もしかしたらそれを知っていて対抗戦を戦い抜いたのかと思ったらアルフィスはアインという男に対して敬意の念が湧いた。
「おまたせ。あれ?ロールもいるの?」
ドアを開けて出てきたのはメルティーナだった。
服装はいつもの軍服だが弓は持っていない。
「あ、ああ、またよろしく頼むよ……」
「なんかの役に立つだろうってことで、お前のオヤジがな。とりあえずスペルシア家まで行きますか」
「そうね」
アルフィス、メルティーナ、ロールの三人はこの町の二つ目の名家であるスペルシア家に向かった。
______________________
スペルシア家
ローズガーデン家の屋敷からさほど離れていないところ、王の塔近くにスペルシア家はあった。
ここもローズガーデン家の屋敷並みの大きさで、アルフィスとロールは目を丸くした。
「私が話すから、あんた達は黙っててね。ここの当主のヴェイン・スペルシアは気難しいことで有名だから」
アルフィスはその言葉に対して何も感じてなかったが、ロールは緊張感が増す。
屋敷に着くとメルティーナが先頭で対応した。
メイドが玄関ドアから現れ応接間に通された。
屋敷の広さに相応しいくらいの応接間で、中央には高そうな机があり、椅子が二十ほど机を回るように置いてあった。
アルフィス達が座って待っていると一人の初老の貴族が姿を現した。
白髪に整えられた髭、顔立ちがどこかアインに似ていたが、その表情には威厳が感じられた。
「メルティーナ、久しぶりだね」
メルティーナとロールが立ち上がり会釈する。
アルフィスも遅れて立ち会釈するが、どこかぎこちない。
ヴェインが席に着くとアルフィス達も席に着いた。
「サーシャちゃんのことは残念です……」
「……もうどうすることもできんさ。こうなってしまったらな」
「……」
メルティーナとロールは悲しい顔をしている。
アルフィスはお構い無しで腕を前に組んでいた。
「病気ってなんの病気だ?」
アルフィスの言葉にロールは絶句する。
ヴェインはアルフィスを睨んだ。
「ちょっと!アルフィス!」
メルティーナが慌ててフォローしようとするが、その名を聞いてヴェインが口を開いた。
「そうか……お前がアルフィス・ハートルか。セレン・セレスティーから二つ名をもらい、うちの息子に勝った男。イメージと違うな。もっと大男だと思っていたが」
「ひ弱そうで悪かったな。それで?あんたの娘は何の病気だったんだ?」
それでも続けるアルフィスに今度はメルティーナが言葉を失っていた。
ヴェインは涼やかな表情だが、アルフィスを見る眼光は鋭い。
「ただの流行り病だよ。この話はこれで終わりだ。お引き取り願おう」
ヴェインに促された三人は強制的に屋敷を出されてしまった。
屋敷の玄関でアルフィスに対してメルティーナはキレそうになっている。
「あ、あんたねぇ……物には言い方ってもんがあるでしょうが!」
「悪い悪い。いつもの癖で……」
苦笑いしながら頭をかくアルフィスに対してメルティーナもロールも呆れていた。
三人が屋敷から離れ、門を通る時だった。
門の外に一人の執事らしき老人が立っていた。
「あれ?リチャード、どうしたの、こんなところで」
メルティーナはこの執事のことを知っていた。
アルフィスとロールは顔を見合わせて首を傾げる。
「サーシャ様のことで、ここまで来られたのですよね?お話ししたいことが御座います」
「どうかしたの?」
リチャードは表情を曇らせ重い口を開いた。
「サーシャ様のご病気は流行り病で間違い御座いません。ただ問題は薬のほうです」
「……薬?」
「はい。一年半ほど前になります。ここにある医者が訪れて、サーシャ様に薬を飲ませたのです。そしたらサーシャ様はすぐに回復されて走り回っておられました」
アルフィスとロールはまた首を傾げる。
それは治ったということではないかと。
「ですが、その後すぐにまた倒れてしまい、寝たきりになってしまわれました。そして……ある日突然凄い力で暴れるようになって……」
「な、なんなのそれ……」
「ずっとアイン様が抑えておりました。アイン様がセントラルへ赴かれて数ヶ月は何事も無かったのですが、長期休みで帰られた頃に意識が無くなって、そのままお亡くなりに……」
リチャードは涙していた。
その涙をハンカチで拭いている。
それを見たメルティーナも涙ぐんでいた。
「その薬ってなんなの?」
「わからないのです……アイン様も調べておりましたが、どの医学書にも載っておらず……」
「どんな薬だ?色とかそういうのわかるか?」
アルフィスが途端に前に出る。
こういう話は黙って聞いてられないタチだ。
「薄黒い水のような薬でした」
「でした?もう無いのか?」
「サーシャ様が亡くなられてから、旦那様が全て燃やしてしまいました」
アルフィスは言葉を失った。
せっかくここまで来て、手がかりが見つけたと思ったら、まさかヴェインが全て燃やしてしまっていた。
「そしてもう一つ問題があります……」
「なんだよ、まだあんのか?」
問題が次々と出ることにアルフィスはキレ気味だがメルティーナが宥める。
ロールはその姿に相変わらず呆れている。
「サーシャ様は死んでいません」
「はぁ?」
アルフィス達、三人は混乱していた。
亡くなって、葬儀もやったのに死んでいないとはどういうことなのか。
「葬儀の数日前に私がサーシャ様のお部屋に入ると起きてらっしゃって……」
リチャードがブルブルと震えていた。
なにか恐ろしいものでも見たかのようだ。
「そのまま窓から飛び降りて行方がわからないのです……」
「意味がわからん……死んだのに起きて、窓から飛び降りて行方不明?」
アルフィスの頭はもうパンク寸前だった。
ここいる全員、何が何だかもうよくわかっていない。
メルティーナは少しでも情報をとリチャードに質問する。
「何か他に気になることはありましたか?」
「……そういえば、その時に一言だけ、"ここは暑い"そう言って窓から出ていかれました」
三人は頭を抱えていた。
この意味不明な状況は何を意味しているのだろうかと。
スペルシア家での情報自体これだけで、手がかりになるものはほとんど無かった。
三人はリヴォルグに報告しようとローズガーデン家に戻る途中だった。
「意味がわからん……死んだのに起きて窓から出て行く?」
「その時、屋敷にはアインもいたはず……追いかけなかったのかしら?」
「あのー」
アルフィスとメルティーナが考え事をしていたが、二人の後ろを歩くロールが二人に話しかけようとしていた。
「その薬ってのも気になるな。しかし、なんで燃やしたんだよ……」
「薄黒い水のような薬なんて見たことないわ」
「あのーすいません」
「なんだよ!」
アルフィスが振り向きロールにキレる。
考え事をしている最中に声をかけられるほど嫌なことはない。
「あ、いや、考えてる時にすまない、もかしてその薬ってこれのことじゃないかと……」
そう言ってロールはローブの中から一つの小瓶を取り出した。
その小瓶の中身は薄黒い水が入っていた。
「な、なんで、お前が持ってんだよ……」
「いや、僕のバディが意識不明になってしまって……なんの
アルフィスとメルティーナは顔を見合わせた。
これは重要な手がかりになると、三人はリヴォルグが待つローズガーデン家の屋敷へ急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます