火の王


一年前


火の国 中央都市 ラザン



入り口の門はこのラザンに入るために人の列をなしていた。

並んでいるのは行商人や聖騎士、魔法使いなど様々だ。


そこに二人の魔法使いと一人の聖騎士がいた。

魔法使いの一人は青い髪に少し銀色が混ざった青年でローブ姿、そして異様に大きい杖を持っている。

もう一人の魔法使いは短髪で黒髪のローブ姿で大きい杖を持った垂れ目の青年だ。

聖騎士の女性はロングヘアで青い軍服を着ている。


「ここまで送ってもらって助かりました」


青髪の魔法使いが二人に別れを告げているところだった。

一緒にいる魔法使いと聖騎士は荷馬車でこの青年をラザンまで送ってきたのだ。


「いいえ!こちらこそ光栄でした!僕なんかが、まさかリーゼ王を……」


「いやいや、今日から私は……いや僕はロールですよ」


ロールと名乗った青髪の青年は水の国の王・リーゼだった。

黒髪の魔法使いは恥ずかしがり、聖騎士の女性は笑みをこぼした。


「なんにせよ、いつも堂々としていた方がいい。心なんて後からついて来るものですよ」


「はい!ありがとうございます!」


リーゼはハッと気づいたように持っていた異様に大きい杖を黒髪の魔法使いに差し出した。


「ああ、そうそう"交換"するのだからこれも"交換"しましょう」


「え、あの、それは……」


リーゼは戸惑う黒髪の魔法使いから大きい杖をを無理やり取り上げると、自分が持っていた異様に大きい杖を渡した。


「大したものではないですよ。でも、もし君が"大魔法使い"になったら返しに来て下さい」

 

「はい!」


「初任務頑張って下さいね」


リーゼは満面の笑みだ。

黒髪の青年は今にも泣きそうだったが涙を堪えた。


「行くかジーナ!」


「ええ!」


そして魔法使いと聖騎士の二人は荷馬車に乗るとリーゼに手を振り次の目的地に向かった。



______________________



ラザン 火の塔前



リーゼは火の塔の門前にいた。

その門は巨大で、おおよそ人の力では開けられないような大きさだ。


リーゼは門を片手で開けて中に入っていった。

門を抜けると螺旋階段が天まで伸びており、これを登り切るとなれば相当な時間が予想された。


「めんどうだからワープ魔法でいきますか……」


そう言うとリーゼは杖を前に出して、詠唱も無しに魔法陣を展開する。

その魔法陣の色は異様な黒色だった。


最上階、螺旋階段の終わりにまた大きい門がある。

リーゼが到着したと同時にその門は自動で開いた。


その薄暗い部屋の中は石造りでかなりの大広間だった。

部屋全体が黒く焦げたような色で、なにか焼けたような匂いが漂っていた。

そして真ん中には赤絨毯がひかれている。

部屋の奥のまで伸びた赤絨毯の終わりには階段が何段かあり、その上に一つの大きい椅子が置かれている。


「兄上、お久しぶりです」


そう言いながら部屋の中へ入るリーゼ。

入った瞬間、凄まじい熱波がリーゼを襲った。

だがリーゼは気にせずに平然と前に進む。

薄暗く見えづらい大きい椅子の方から声がした。


「誰かと思えば弟か」


「いやいや、わかってたでしょ。ロゼ兄さん」


リーゼはニコニコと笑顔で反論する。


椅子に座っているロゼという男は痩せ型の筋肉質で上半身が裸、下が黒いレザーパンツという服装だった。

ぼさぼさの長髪で、ほぼ全ての髪が銀色、少し赤が混ざり後ろで結っている。

瞳も真っ赤でリーゼを見る眼光は鋭い。


「お前、その言葉遣いはなんだ?気色悪いぞ。それにその杖はどうした?」


「ああ、送ってもらった魔法使いに頼んで"交換"したんですよ。流石に目立つ格好で旅をするわけにはいきませんから」


「凄まじく弱っちい気配の人間と来てたようだが、あんなのに"あの杖"を渡したのか?」


「人材を見つけたら、まず期待をかけるところから始めるんですよ。本人に聞こえ、見えるようにね。そうすると知らぬ間に出世したりします」


ニコニコしながらリーゼは答える。

その話を聞いたロゼは呆れ顔だった。


「あの杖はオヤジの骨で作った杖だろうが。シリウスが持ってるロスト・フォースほどじゃないが、この世界だと最強クラスの杖だぞ。無くしたらどうするだ?」


「いいんですよ。それに、あの杖は落としても無くしても彼の元に戻る。彼、面白いスキルを持ってるんですよ」


「ふーん。シークレットスキルか。人間でも稀にいるな」


スキルは四つしか刻めない。

シークレットスキルはスペシャルスキルと一緒で刻めるスキルとは別に生まれた時から保有している特殊なスキルだ。

さらに四つの刻めるスキルとは別に持つことがきるので、シークレットスキルを持つ者は五つスキルを持つことができる。

このシークレットスキルは本人も気づかない場合がある。


王は全員固有のシークレットスキルを持つ。

火の王ロゼは"気配察知"というスキルを持ち、国土に住む全ての者の力を測れる。

水の王リーゼは"魔力測定"というスキルを持ち、触れた相手の魔力量とスキルがわかる。


「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。今日は何の用だ?戦いにきたわけじゃないだろ?暇で暇で死にそうだから戦ってもらえりゃ嬉しいんだが」


「兄上と戦ったら三日でも終わらないでしょう。流石にそんな時間は無いんですよ。土の国の竜血の件です」


ロゼはそれを聞いた途端にやる気が無くなった。

もう早く帰ってくと言わんばかりの表情だ。


「魔人や魔獣が大量に発生している。もし暇なのであれば手伝って頂ければ嬉しいのですが」


「俺は楽しくないとやりたくないなぁ」


凄まじくやる気のない返答だった。

力なく椅子に腰掛け、威厳も何も感じないような体勢だ。


「魔獣が千や二千いようが触れずとも倒せる。魔人なぞ指一本あれば充分だ。"魔力覚醒"も"魔力武装"も"魔力収束"も必要無い。それの何が楽しい?」


「楽しさを求めているのであれば、つまらないでしょうね」


リーゼが苦笑いする。

ダメもとでここを訪れたが、やはりロゼの心は動かなかった。


「仕方ないですね……急ぐのでこれで失礼しますよ」


「茶も出さずにすまないな。まぁ早く土の国の宝具の使い手を見つけることだな」


「……」


リーゼはそれが不可能なことはわかっていた。

その宝具のデメリットが凄まじいもので、それを扱える人間はいないと。


「人間が使うと"死ぬ"というデメリットは流石に無理があるでしょう」


「"死ぬ"は語弊がある。似たようなものだがな。まぁもしアレを使いこなせる人間がいるとするなら唯一、俺と対等に戦えるかもしれんな」


リーゼは少し考えて、ロゼに会釈すると部屋の出口へと向かった。


「あ、そうそう、ここから南西の方に野営地がある。そこにセレン・セレスティーがいるから会ってくるといい」


「なぜです?」


リーゼは立ち止まり振り向く。

セレン・セレスティーとは昔に一度会ったきりでそれから何年も会っていなかった。


「あの女はいい女だ。会いに行く理由ならそれで十分だと思うが」


ロゼは笑みを浮かべた。

リーゼは旅を急いでいたが、久しぶりの再会もいいかと思った。

何せ人間の寿命は短いので"一度会っただけで次はもういない"というのは何度も経験したことだったからだ。


「行ってみますよ」


リーゼは笑顔で答え、ロゼの部屋を後にした。


ロゼは部屋の門が閉まるのを見届けると同時に目を閉じ眠りについた。

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