眠れる獅子

アルフィスとリヴォルグはローズガーデン家の修練場にいた。

修練場はローズガーデン家の裏にある森の中のドーム場の建物だ。

学校の闘技場ほどではないがかなり広い。


アルフィスとリヴォルグの他にもメルティーナとセシリア、グレイの姿もあり、訓練中たった軍の聖騎士や魔法使いも数人いた。


「あの若さで二つ名持ちとは……」


「魔人を一人で倒したって噂だ、何かの間違いだろ?」


「総帥の宝具を奪いにきたのか?命知らずめ……」


ギャラリーは言いたい放題だった。

アルフィスは完全にアウェイな状態だ。

グレイはニコニコしながら眺めており、メルティーナは心配そうな表情だった。


中央には手ぶらのアルフィス、そして向かい合うリヴォルグは宝具を持っていた。

宝具は銀色、この前見た時は剣だと思っていたが鞘に収まっている状態だと中型の杖のようにも見える。

さらに鞘のナックルガードの下は剣の刃が剥き出しになっており、あのまま握って剣を引き抜けば手を切りそうな形状をしていた。


セシリアがアルフィスとリヴォルグの間に立ち、コイントスをおこなうようだ。


「決闘形式は久しぶりだね。私は魔法学校時代は出来が悪かったから、あまりやったことがないんだ」


「嫌味かよ。あんたが出来悪かったら、みんな落第だぜ」


リヴォルグに笑みを浮かべる。

リヴォルグは久しぶりの人間相手、それも挑戦者というだけで高揚していた。

なにせシックス・ホルダーに挑もうとする人間には会ったことがなかったからだ。


「グラサン外した方がいいんじゃないか?顔面いくぜ」


「心配は無用だ。恐らく君の攻撃は私には当たらない」


リヴォルグがまた笑う。

アルフィスはこの自信をなんとしてもへし折ってやろうと握り拳を作る。

アルフィスの心は一発目、顔面に右ストレートで決まった。


セシリアが中央に入り、コイントスをおこなう準備をした。

そしてコインを勢いよく弾き、そのコインは地面に落ちた。


「複合魔法!」


アルフィスがリヴォルグの目の前から消えた。


リヴォルグはナックルガードの下の刃を握り、一気に剣を引き抜いた。

リヴォルグの手は切れるが、その血は全て剣と鞘に吸収されているようだ。

銀色の剣と鞘は真っ赤に染まり赤黒いオーラを放ち始めた。


「インパクト!」


アルフィスの右ストレート。

完全にリヴォルグの顔面を捉えていたが、リヴォルグは剣のナックルガードでその拳を弾き飛ばした。

仰反るアルフィスに対して逆手持ちの鞘を地面に擦り付けて左下から右上に振り上げる。

すると氷の剣が地面から突き上がり、その氷剣はアルフィスの首元に向かう。


アルフィスは間一髪のところで上体を後ろへ倒して回避する。

そして、すぐさまバックステップで距離を離すが、体に違和感を感じていた。


「魔法が解除されてる……」


突き上がった氷の剣が砕けたと同時に凄まじいスピードでリヴォルグがアルフィスにダッシュする。


「複合魔法!下級魔法強化!」


アルフィスはまたその場から姿を消して、赤い閃光が大きく反時計回りに円を描くようにしてリヴォルグの左方向へと走った。


「見抜くのが早いね。ここまで戦い抜いてきただけある」


立ち止まったリヴォルグはニヤリと笑う。

アルフィスの狙いは左手の鞘狙いだった。

この一回の攻撃でリヴォルグが持つ剣が"エンブレム"の役割で鞘が"杖"の役割を果たしていることを理解した。


リヴォルグが鞘のナックルガードで地面を殴る。


「"氷結の結晶剣・絶"」


氷の剣が無数にリヴォルグの周りから突き上がり、周囲に5メートルほどの氷の壁を作った。


しかしアルフィスの狙いは左側ではなかった。


リヴォルグは上空に気配を感じる。

上空から赤い閃光が地面めがけて落ち、その衝撃で地面も砕け、氷も全て砕けてしまった。

周囲の地面には無数の亀裂が走っていた。


「複合魔法解除……これで、どうだ……」


胸を押さえたアルフィスが立っているが、アルフィスが立つ場所には"水溜まり"があるだけでリヴォルグはその場にいなかった。

その後"水溜まり"は残らずにすぐに消えた。


「面白い戦い方だ。パワーとスピードも十分。今のがまともに当たっていたらタダでは済まなかったろう」


リヴォルグはアルフィスの後方3メートルほど離れた場所に立っていた。

リヴォルグは剣を鞘に収める。

すると赤黒いオーラは消えて宝具は銀色のに戻った。


「おい、まだ……終わってねぇぞ……」


「もう十分だ。これ以上戦ったら君の体がもたないだろう」


「クソが……」


「問題はリスク管理だな。あと探知のスキルで君の体内の魔力流動を見たが魔力操作がめちゃくちゃだ。それだと体に反動がきてもおかしくない」


リヴォルグは背を向け修練場を出ていこうとしていた。

セシリアもアルフィスを蔑んだ目で見た後、リヴォルグの後を追った。


「グレイ、メルティーナ、アルフィス君を頼むよ。私は書斎に戻る」


それだけ言うとリヴォルグとセシリアはその場を後にした。

グレイとメルティーナは胸を押さえるアルフィスに駆け寄る。


「アルフィス……お父様と戦うなんて……」


「無謀だったな。だが、凄いものを見せてもらったよ」


心配するメルティーナとニコニコしているグレイはアルフィスに肩を貸す。

アルフィスは胸の痛みに耐えられず、そのまま気を失った。



______________________




リヴォルグとセシリアは書斎にいた。

机に着くリヴォルグは机の下の引き出しを開いて一つの"箱"を取り出し、机の上に置いた。


「総帥、それはなんでしょうか?」


「さっきもアルフィス君に言ったんだがね、私は本当に出来が悪くて、魔法学校時代では実技の成績は最悪だった」


「信じられないです……」


それはそうだった。

今は水の王を除けばこの国の最強の魔法使いでありながら剣士、そして軍の最高司令官だ。


「私は魔力が高すぎるせいで魔力操作が上手くできなくて、よく怒られたものさ」


「……」


リヴォルグは魔法学校時代のことを思い出し笑みを浮かべる。

だがそんな話を聞いてもセシリアは信じられない様子だった。


「この箱の中に入ってるものは、そんな私を見かねた恩師からもらったものだ。後から知ったがこれは国宝級のもので、宝具に次ぐほどのものだそうだ」


「宝具に次ぐもの……そんなものが存在したなんて……」


「この世界にいくつか存在するのさ。そして……これをここでただ眠らせておくのは勿体ない。まだ見ぬ未来に託そうかと思ってね」


「ま、まさか……」


そう言ってリヴォルグは箱をゆっくり開けた。

その中には真っ黒なグローブが二つ入っており、甲の部分には白く魔法陣が描かれていた。


それは全ての光を飲み込むほどのブラック。

"漆黒のグローブ"だった。

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